無意識日記々

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いつの「私について」なの?

「なぜLSAS2022で演奏された過去曲が『Hotel Lobby』と『About Me』だったんだろうなぁ?」という疑問の適切な回答がまだわからない。今回も結局わからないのだけど、また考えてみた。

Hotel Lobby』に関しては、この曲で歌われているホテルが、私には「リゾート・ホテル」にどうしても聞こえてしまうために『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー』の代わりだったのかなぁ?というのが私の中で定説になっている。歌詞がマルセイユになったのは音節数の都合であって本来はフランスのCassisという観光地をイメージしていたんだとか。写真を見ると風光明媚な土地柄で、なるほどここから眺めるオーシャンビューは贅沢だなぁと思わされる。そんなリゾート・ホテルのイメージと『Hotel Lobby』のトロピカルなサウンドが結び付いて代替曲として採用されたのではないかという仮説が説得力を持ったのだった。

加えて、『Hotel Lobby』って、ライブで演奏された事があるのよね。2005年2月23日のニューヨーク・ショウケース・ギグ、スカイライト・スタジオでの公演で。この時1回のみだが生演奏で歌われた訳なので、バンド用のスコア(楽譜)が存在する筈なのよねヒカルのラップトップには。今はiPadなのかもしれないけれど。一度書き下ろしたものがあればアレンジもし易いし、そんな制作上の都合も加味されていたのかもねって。

…だなんていう風に、『Hotel Lobby』については幾つか考えつくんだけど、『About Me』は難しいのよねぇ。この曲はそのショウケースでも歌われていないし、どちらかといえば『嵐の女神』のように、生で歌うことは想定されていない、パーソナルな楽曲なのかなとも思っていたのに。

Hotel Lobby』が『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー』の代替曲であれば、それに類推して『気分じゃないの(Not In The Mood)』の代替曲として『About Me』が採用になったというのは、ありそうなことだ。が、代わりになるような共通点がこの2曲にあるのだろうか??

そこで考えたのが、実は両方とも「予言的な歌詞」を持っているという捉え方だ。『About Me』は2004年の歌だが、「あなたがプロポーズする前に、知っておいて欲しいことがある」という内容からして、ヒカルさんの実体験に基づく歌詞ならば、実際に結婚する2002年9月より前の出来事や遣り取りを参考にして生まれた歌詞だと考えるのが自然だった。のだが、この歌の歌詞が、この時点では実体験ではなくて、「未来を予想した歌」だったとしたらどうだろう?

1番の歌詞に

『もしかしたら私はあまり

 正直な人間じゃないかもしれない』

という一文がある。如何にもプロポーズ前に言いそうな一言だ。本当にこんな私でもいいの?ねぇいいの?的なやつ。

ところが、3番の同じメロディの所は

『もしかしたらあなたはあまり

 正直な人間じゃないのかもしれない』

となっている。あれ?これプロポーズの前に言うセリフか?とちょっと違和感がある。プロポーズを本気で思いとどまらせようとしてるみたいで不自然だ。なので、もしかしたらこの部分は、1番のそれと対比するカタチで「将来私はこんな風なことを言うようになるのではないか?」という予想を含んだ言い回しになっていたのかもしれない、とそう考えてみた。

もっと言えば、『About Me』は、前半の歌詞が過去の「プロポーズの前の話」で、後半の歌詞が未来の「離婚を目前にした歌詞」になっていたのかもしれない、と。結婚が2002年、離婚が2007年、『About Me』は2004年だから、もしそうだとすれば確かにこの歌の歌詞は「未来を予想した」ものだと言えてしまう。

ということで、『気分じゃないの(Not In The Mood)』が予め

『雨、雨、どっか行け

 また今度にして』

と雨を忌避する歌詞を用意していたら実際に雨風を避ける為にヒカルに話し掛けてきた人物が現れたように、『About Me』も、「もしかしたらこんな将来がくるかもしれない」という歌詞を書いたら本当にそんな遣り取りをする羽目になった、みたいなエピソードを持った歌だったのかもしれない。だとしたら、『気分じゃないの(Not In The Mood)』の代替曲が『About Me』だったというのは、なんとなくありそうな気がする…

…と、話がそれなりに纏まればよかったのだが、この仮説には大きな問題点がひとつある。LSAS2022が収録されたのは2021年の11月。その一方で、夜のバーで作詞をするヒカルの前にポエムを売りに来る女性が現れたのは2021年12月28日のことなのだ。つまり、LSAS2022の時点では、当のヒカル本人すら、『気分じゃないの(Not In The Mood)』の歌詞が予言的であることを、まだ知らない。代替曲として未来予想的な歌を選ぶ理由がこの時点では無いはずなのである。

なのでこの仮説は却下…と思ったんだけど、そもそも予言的な『About Me』を代わりに歌ったから『気分じゃないの(Not In The Mood)』が予言的になった、という因果の逆転が起こっていたのだとしたら…だなんて、いやいや、幾ら何でも考え過ぎだろう?

……と、言い切れなくなってきているのが今の宇多田ヒカルの凄味なんだよね。さて真実は、どこにあるのでしょうか?