無意識日記々

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『First Love (2022 Mix)』を普通にレビューしてみた

さてさて、まだ『First Love (2022 Mix)』について殆ど触れてなかったな。実に良いぞこのトラックも。

0:17での『Oh Yeah』のお陰でかなりの人がこれを新バージョンと認識してくれているようで何より。一方で0:10でのヴォーカルの音割れがまだ残っていることから(だけどかなり和らいだかも!?)、メインの歌唱自体を差し替えた訳ではないことがわかる。『Oh Yeah』は今回「新しく足された」ってことね。

これがリミックスの利点だ。リマスタリングというのは完成されたステレオ2トラックをどう修飾するかであって新しく音を足したり引いたりは出来ないのに対して、ミックスをし直すというのは「録音してあったけど実際には使われなかった素材」を新しく持ってこられる。今回は大胆にもメインのヴォーカルでそれをやってきた訳だね。

足されたというのと強調されたのと両方がある左右のアコースティック・ギターサウンドも耳を引く。元々鳴っていた音はより鮮明にくっきりと鳴り、更に新しいラインまで加わって新鮮さを演出している。

ストリングスもより空間の広がりを感じさせてくれている一方、ヴォーカルがそこに埋没してしまわないようにしっかりと音場の中で歌声の為の空間を確保していて、これまたハッキリ聴き取りやすい。2014年のリマスタリングの際にはヴォーカルと重なる帯域の楽器の音を削ってヴォーカルを際立たせていたように思ったが、今回は残響を独立させてそれらが混ざり合わないように配慮した、といった所か。

ここらへんの手法の違いは、その時のミックスやマスタリングのコンセプト次第といえる。2014年の時のコンセプトは「ハイレゾ化」で、ダイナミック・レンジの広さをアピールする為にオリジナルのラウドネスを強調したサウンドから軌道修正し、耳当たりのいい柔らかで落ち着いたサウンドを再構築していた。

今回のコンセプトは「空間オーディオ」である。ここらへんが今回もややこしいのだが、2014年のリマスタリングハイレゾ化が主眼だったが、同時に配信音源やSHM-CDに対しても新たなマスタリングが施されていた。それらはハイレゾ化そのものではなかったのだが、「ハイレゾ化と同じ方向性、同じコンセプト」でリマスタリングされていた。2022年も同様に、『(2022 Mix)』というのはドルビーアトモス、空間オーディオそのものではないのだが、同じ方向性で、即ち、空間的な広がりと各楽器やヴォーカル、バックコーラスの定位に拘ったサウンドに設えられている。シンプルに言ってしまえば「擬似空間オーディオ」となっているのだ。

よって、ヒカルの歌声が中央でスポットライトを浴びているかのように鮮明に浮かび上がりつつ、バックのストリングスが昔より更に高低差と左右の広がりを伴って豊かに鳴り響き、そこから更に外側を、ストリングスに埋もれないように左右両側からアコースティック・ギターの調べがこちらの間近に寄り添ってくる、なかなかに外連味のあるミックスに仕上がっている。

よってその印象は奥行きと広がりを増していて、まるでコンサート会場に居るみたい…と言わせたいだろうことがよくわかるサウンドだ。が、結局はこの国民的バラードはヒカルの作ったメロディ・ラインと歌詞、更に絶品の歌唱が肝なので、どうサウンドを変化させてもその魅力は揺らがないのだなという点を強く再確認するいい機会を与えてくれたな、というのが私の主たる感想ですかね。またこの名曲に新しく触れる層が出てきてくれた時に自信を持って呈示できる最新版のリミックスとなっている。ほんにスティーヴ・フィッツモーリスはええ仕事するなぁ。自分が携わった『初恋』のみならず、こうやって従来は全く自身とは無縁だったトラックを見事にブラッシュアップしてくれた。素直に拍手を送りたい。88888888!