リアルサウンドになかなか面白い記事が掲載されている。
https://realsound.jp/2022/12/post-1214925.html
要点を搔い摘まむと
「『First Love』のドラマに伴うリバイバルヒットは、英欧米での『BADモード』への高評価や4月のコーチェラで見せたアジア圏での宇多田リスペクト再確認などの文脈も考慮に入れて捉えるべきだ。」
という感じだろうか? 違ってたらごめんなさい。
これは重要な指摘で、確かに日本国内で『First Love』は常にスタンダード・ナンバーで、今回のドラマはその事実を一斉に再確認したみたいな雰囲気なのだが、アジア圏でのこのドラマのヒットはどう捉えるべきか。
何の根拠もない私見だが(今年風に言えば「それって私の感想ですよね?」ってとこね)、アジア圏でのドラマの大ヒット自体、宇多田ヒカルと『First Love』の威光なのではないかという事だ。つまりドラマの評判がよくて『First Love』が見直されたというよりは、宇多田ヒカルと『First Love』が関連付けられたドラマだから注目を集めたのではないか、という話の順序。その後何週間も失速していないのは偏にドラマ自体の力だとは思うが、初週の瞬発力は宇多田ヒカルの知名度のお陰だったのではないかなと。ここらへん、満島ひかりと佐藤健のアジアでの知名度を知らないからなんとも言いづらいのだけど。
で。海外での宇多田ヒカルの知名度を推し量る時に忘れてはいけないのは、UTADAでの活動とキングダムハーツの主題歌だ。日本に居るとここを見誤る。
日本では、日本語の歌と英語の歌でヒカルの名前の表記が変わっていた。宇多田ヒカルとUTADA。更に最初はレコード会社も違っていて、かなり両者の活動は「別物」という感じで捉えられていた。辛うじてヒカル自身もCM出演した「Nintendo DS」と『Easy Breeay』に関しては宇多田ヒカルの印象で覚えられている(お陰で『エキソドス』はミリオンセラーになった)のだが、以降の英語での活動はまるで別のアーティストであるかのようだ。
日本以外での国ではそういった現象がない。そりゃそうだ、僅かな漢字圏以外では表記の違いったってUtada HikaruとUTADAなのだからすぐに同じアーティストとして認識される。歌われる歌詞が日本語か英語かというのも、アジア圏の多くのリスナーにとっては「母語ではない」という点ではどちらも大して変わらない。つまり、宇多田ヒカルの活動とUTADAの活動は、日本ほど別々に捉えられてはいない筈なのだ。
それが何故重要なのかというと、『Come Back To Me』と『Sanctuary』がUTADAの時期にリリースされた楽曲で、この2曲の人気が大変高いから。
『Come Back To Me』に関しては、これまでも何度も触れてきた通り、日本以外では結構スマッシュヒットした楽曲なのである。YouTubeでのPV再生回数は、カウント開始時期が異なるため単純な比較は出来ないのだが、オフィシャルに置いてあるビデオの中では6曲しかない「3000万回再生」を達成した楽曲のうちのひとつなのだ。これが日本以外の国では「宇多田ヒカルの代表曲のひとつ」として数えられている。『First Love』『Flavor Of Life』『Come Back To Me』みたいな並びだね。ここを、日本のリスナーは普段から見落としている。
更に『Sanctuary』は、アルバムでいえば2009年の『This Is The One』に収録された楽曲ということになるのだが、キングダムハーツ2の主題歌たる同曲の海外人気は凄まじい。勿論1の『Simple And Clean』や3の『Face My Fears』&『Don't Think Twice』も同様だ。日本では『This Is The One』は黙殺されているし日本語バージョンの『Passion』は2005年にリリースされているしなので、ここの重要さも見落とされてがちである。
コーチェラでの選曲を思い出そう。そう、宇多田ヒカルの代表曲である『Automatic』『First Love』、そしてキングダムハーツ主題歌である『Face My Fears』『Simple And Clean』が選ばれていた。米国のファンにとって、そして共演したアジアのアーティストたちにとって、宇多田ヒカルの代表曲とキングダムハーツの主題歌は同等に重んじられている事がよくわかる選曲だった。
つまり、アジアと欧米のファン達は、宇多田ヒカル名義の代表曲と、UTADA期の活動、そしてキングダムハーツ主題歌が総て同じアーティストの実積として捉えられているのだ。ここの感覚を知っていないと、日本から海外の宇多田ヒカル人気を推測する事は難しいのではないだろうか。ここを踏まえずに分析をしても物足りたくなる恐れがある。…っていう辺りの話は些か捕捉が要るかな。次回気が向いたら書きますね。