で前々回の続きになるわね。letの過去形は同じくletなので、
『 I never let you conquer me
I let you rule』
に出てくる2つのletは現在形か過去形かわかんないのですよ。neverがdon'tやdidn'tやhaven'tならよかったんだけどねぇ。neverは時制に依らないのでね。
で。これが現在形でも過去形でも大して意味が違わないなら気にしなくていいのだけど、これがかなり変わってくるんだな。conquerには「ハートを射止める」とか「口説き落とす」とかいう意味があった。ここは短く「惚れさせる」で統一すると、
『 I never let you conquer me』
のletが過去形とすれば
「私は君に惚れさせれたことはない」
になる。現在形だと
「私は君を決して私に惚れさせない」
になる。前者は事実の話で、後者は決意の話だ。本来ならそれらは現在完了形と未来形で書かれるものなのだが、過去形と現在形でも似た意味に成り得る。この2つ、ニュアンスが違ってくるでしょ? さてどっちが正解なのでしょう?
というところで、答を導くために更に歌詞の他の場所を見てみよう。英語歌詞の最初の部分。
『Everybody's got their eyes on you』
ここの意味は
「誰もが君のことを目に留める」
みたいな感じ。「道行く人が皆君を見て振り返る」みたいな、歌詞にありがちなフレーズだね。
ここ、英語を勉強中の人は気になるかもしれない。everybodyは単数形の語なのにそれを受ける代名詞がtheirなの?複数形っておかしくない?と。
いやその通りなんだけど、「どの一人も」っていうときに老若男女を想定してる場合he/hisにもher/herにも限定出来ないからここはtheirにしちゃうのが通例なのよね。決まり文句みたいなもんだしね。
だなんて言うと、読者の方はヒカルがInstagramで自らの英語での代名詞を『she/they』にしていた事を思い出すかもしれない。そういえばノンバイナリの人はthey/theirを単数の代名詞として使うんだっけ?と。
今回のこの『their eyes』のtheirは、強く「ノンバイナリを想定して」と言える使い方でもない。とはいえ、ふと考える。今後のヒカルの書く英語の歌詞ではこのthey/their、増えてくるんじゃないかな?と。今回のは然り気無いとこだけど、次からも似たような「穏当な使い方」をひとつひとつ重ねていって、ノンバイナリのthey/theirが歌詞の中で自然に使われていく状況をヒカルは作っていくかもしれないなと。
ヒカルは昔から、現況と出来るだけ摩擦を起こさずに変化を取り入れる事をしてきた人だ。性自認の問題も、もし歌詞に取り入れるとしたら、センセーショナルなやり方とは真逆の、「いつの間にか馴染んでた」みたいなやり方で来るんじゃないかな。その嚆矢がこの『Everybody's got their eyes on you』の一節だったと、後から振り返ることになるのではと、今から未来が楽しみな私でしたとさ。
…って、あれれ? letの話をしてたつもりがいつの間にかtheirの話になってた! 失敬しますた。ヒカルもこんな感じでなだらかにいろいろと変えてくるのかもよ??(どーだかw)