無意識日記々

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For Your Information ... of His Passing

坂本龍一が亡くなった。謹んでお悔やみ申し上げる。

ヒカルとの関わりは一も二も無く『FYI - Merry Christmas Mr. Lwarence -』だろうか。2009年発表の『This Is The One』に収録された楽曲だ。『Merry Christmas Mr. Lawrence』とは日本では「戦場のメリークリスマス」として知られる大島渚監督による映画作品のタイトルで、同曲は実質この映画の主題曲にあたる。

日米英合作で製作された同作はかのデイヴィッド・ボウイが役者として出演している事もあってか日本語圏以外のミュージシャンの間でもそれなりの知名度があるようで、このUTADA名義による『FYI - Merry Christmas Mr. Lawrence -』の制作は、当時UTADAの共同作業者であったSTARGATEノルウェイの2人組プロデューサーチームの呼称)側からの提案であった。当時のインタビューにおいて「もともとこの楽曲のメロディを使って(出来れば日本人アーティストと)歌モノを作る」というアイデアが彼らの間に(或いはどちらかに)先行して存在していて、そこにUTADA側からプロデュースの依頼があったので所謂渡りに船で提案された1曲のようだ。要はヒカル発のアイデアではなかったということね。

この曲の扱いの難しさはタイトルに現れている。『FYI』『Merry Christmass Mr. Lawrence』という2つのタイトルの併記。どうやら当初UTADA側は『FYI』というシンプルなタイトルで行くつもりだったところを坂本側から「これはカバーにあたるから『Merry Christmas Mr. Lawrence』というタイトルにしてくれ」と注文が入ったようだ。UTADA側はこれはサンプリングとか引用とかにあたるからクレジットにその旨表記すればいいだろう、という感じだったか。結局妥協案としてこの2タイトル併記という結果になった。双方に見解の相違があったが故だわね。

ヒカル自身も「坂本龍一と共演する気は無いか」と問われて「(坂本がピアノを弾いたとしても)リードシンガー2人みたいになりそう」とやんわり難色を示した事がある。特にこの2人の間が険悪だったということはないので、これはつまり「両雄並び立たず」、余りにどちらもアーティストとしての存在感が強過ぎたが故の距離感だったかと推察する。

更に歳上の井上陽水にすら崇拝される宇多田ヒカルUTADA)という存在に対して「両雄」という対等な立ち位置を保持して何ら違和感を抱かせなかったのだ。その事実が坂本龍一という音楽家の途轍もない偉大さを何より物語るのではないだろうか。果たして今後ヒカルに対して斯様に対等に振る舞える日本語圏アーティストが出てくるかどうか極めて訝しい。稀有極まりない天才を喪ったね。早過ぎる死に悔いが残る。