HikkiがTCY Radioで「最近観た映画」として挙げてた「バービー」を観てきましたよ。
色々言われてるけどひとつの映画作品としてのクォリティは異常に高い。ほんと、アメリカ映画?ハリウッド映画?呼び方はわからないけど、あの業界はノウハウをしこたま積み上げるねぇ。手法ひとつひとつを突き詰めまくっていて全くといっていいほど隙がない。参った。
その上で手を付けた方向性は、実写でファンタジー要素マシマシの、前半コメディでラストに向かうほどしっとりさせるという所謂王道の物語だった。まるで萬腹企画だなぁと思ったよ。(喩える方と喩えられる方の知名度がまるで反対だな)
が、呑気に評価できるのはこのラインまで、というのが私の正直な感想で。それ以上の何を言ってもこの作品の持つ「リトマス試験紙的な側面」に引っ掛かりそうでなんとも怖い。要するにこの映画の感想を言うことで
「現代の思想の変化にどこまでついてこれてるか」
があからさまにバレてしまうのだ。もっと言えば、不平不満を言った時刻で私の思想のアップデートぶりが全部判定されてしまう。よくこんなもの作ったな。現代の思想と書くと堅苦しいが、要は男女差別とかLGBTQ...とかそういう話よね。誰がブレインなのか知らないけど、これを作った最奥の人は自分の頭で考えられる人なんだろうな。
ぶっちゃけ、そこまでは完璧と言っていい。問題は、この映画がそこから先の未来に踏み込んで提示しようとしたテーマに、作品のシナリオが追い付かなかった点だろう。現代思想潮流を批判的に描くまではよかったが、この映画はそこから「映画という文化そのもの、作品性やその影響力の限界」にまで言及しようとした。だが、本来単なる娯楽作品或いは芸術作品として最も核となるべきテーマをそこに設定してしまった為、「普遍性」をこの作品は獲得し損ねてしまった。そこまで計算尽くなのなら文句は言わないが、「現代のハリウッドの限界を訴えたいが余り、自らがその現代のハリウッドの限界に絡め取られてしまった」ように思える。結論としては
「89点まではノウハウの蓄積で何度でも到達できるけど、そこから先は違う何かが必要なのよ」
と、この映画は言ったようにみえた。それが本来「言いたかったこと」なのかはわからない。言い切れたからこうなったのかもしれないし、言えなかったからこうなってしまったのかもしれない。それは私もわからない。でも兎に角そうなれた、或いはそうなってしまった映画だ。
ともあれ、そういう小難しいことさえ考えなければ、前半で大笑いさせてもらって後半ホロリとさせてくれる良作なのは全く間違いない。ミュージカル部分も実に結構。そうやって楽しめるレイヤーを巧みに多層に設定したことで多くのレイヤーに受け容れられて米国では大ヒットしたのだろう、かな?
ただ、日本でやるにはバービーというテーマ自体も、其処彼処に鏤められた小ネタも、パロディ元の知名度が低くて受け容れられづらいというのはあるだろう。私もきっと半分以上のパロディはわかってないもん。それでも楽しめたけどね。そういう「楽しめる力量」に対してもリトマス試験紙なのがまた意地が悪いというかなんというか…。なので日本でやるならバービーから総取っ換えのリメイクにするしかないかもな。超訳吹き替えで…それも無理かなー。
まぁでも、ヒカルさんがこの映画の名前を出したくなった気持ちは何となくわかったつもりになれたので、こうやって私は日記に素直な感想を書くのでありましたとさ。もしみんなに観て貰いたいと思わなかったらあの場面では「もちろんキングダム3です!」って言ってお茶を濁していただろうから。ノンバイナリとしては「ここまで言った作品をここまでヒットさせたのね」ということじゃあないでしょうか。わかんないけど。
なお、ビリー・アイリッシュによるエンディング・テーマは、突出した名曲ではないものの、きっちり普遍的な気がしましたよ。だけど、映画自体と歌の寿命どちらが長いかっていうと本気で判らない。そこをちょっと見てみたいとは思ったな。文化的遺伝子の価値?をどう捉えるかもまた広範に捉え直さなければならないか時期なのかもね。私は宇多田ヒカルの歌を毎日「いい」と言うことで結構満足しちゃってますけども!