無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

Mother's Sun & Lady's Moon.

また小粋なInstagramが投稿されたなぁ。

@kuma_power : 月面ブランケットの上で月光浴

Moon bathing on a moon blanket

https://www.instagram.com/p/Cw1chKiIKDn/

モノクロームな月影の密やかに美しいことといったら。月面ブランケットというのもらしくていいわね。足をひょこんと出してるのは落とし物シリーズと構図を似通わせたかったのかしらん。

宇多田ヒカルと月、というのは余り頻出しない組み合わせだ。太陽の方はお母さんの象徴として何度も歌詞に出てくる。初めての日本語曲『Never Let Go』からしてそうだものね(『太陽に目が眩んでもその手を離さないで』)。

確かにまるで全く歌詞に出てこない訳ではないものの、そこまで印象的という事も余り無い。『traveling』に出てくるよと言われて、「え、どこだっけ?」と一瞬思ってしまった。あぁ、『風にまたぎ 月へ登り』ね。

そんな風だからいちばんすぐに思い出されるのは「 Fly Me To The Moon (... in other words)」だったりする。カバーやん。半分だけ歌った「Moon River」も絶品でしたな。それはさておき。

それでも勿論印象的な歌詞というのはありまして。例えば『荒野の狼』の『二匹の月夜舞台』とか。『Keep Tryin'』の『月夜の願い 美しいものだけれど』とか。でもいちばんはこれかな。『東京NIGHTS』の

『月など要らない』

かな。何がいいって、太陽ばっかり歌って月のことを歌わない宇多田ヒカルが月を「要らない」と言い切ってるのが妙にハマってしまいましてね。なるほど、要らんから歌ってへんのかと納得してしもたんですわ。

だけども、ある時次のような解釈を聞かされて。

「太陽が“母”の象徴なら

 月は“女”の象徴なのでは?」

と。これにはメチャメチャハッとさせられまして。そういう風に太陽と月が対になっているのか!と。その解釈を携えて『東京NIGHTS』の歌詞を聴き返してみると…

『隠しておきたい

 赤ちゃんみたいに

 素直な気持ちはビルの隙間に

 月など要らない

 お母さんみたいに

 優しい温もり 街の明かりに』

…この部分。これは最初「月」と「街の明かり」が対比されていて、都会には明かりがあるから月の光で照らされる必要はない、という意味に捉えていた。ビルの隙間に素直な気持ちを隠せるのも、都会の喧噪が人の本音の部分も呑み込んで受け容れてくれるからだと。田舎だと本音言ったら村八分で爪弾きにされるからねぇ。

勿論その解釈も生きているのだが、更にこの「月」が「女のさが」として次の『お母さんみたいに』≒「母性」とも対比されているとかになると更にこの歌の奥行きが増す。確かに前段で、『この辺で誰かと帰りたいカエリタイ』とかって歌っていてワンナイトラブな雰囲気を漂わせてくれているのだが、これがヒカルの「女」としての側面の描写だとすればそれを『要らない』と切り捨てたがる心情は確かに母性の方に寄り添いそうで、『赤ちゃんみたいに』と『お母さんみたいに』の間に密かに「女として」の気持ちが挟まってるのかと思うといやこの歌のセクシーさが3割増しくらいにはなるのよね。

っと、それを踏まえた上でここから20年近く後に発表された『誰にも言わない』の一節を思い浮かべる。

『One way street 照らす月と歩いた

 好きな歌 口ずさみながら』

要らないって言ってた月と一緒に歩いてる! 一方通行(片想い?)の道を月と共にねぇ。この歌は今までで最もヒカルの「女」としての側面を鮮やかに描いた歌なので(だって、

『Can you satisfy me ?

 Boy you know what I need

 I just want your body

 I just want your body』

ですよ?)、それが月と共に口ずさまれてるとすれば、確かに月は「女」や「女らしさ」の暗喩なのかなと合点がいくのよね。

元々そもそも月には女性的なイメージが付与されがちなんだけど、ここでは宇多田ヒカルが「太陽を母と見立てている」ことがフックになっていて。「太陽と月」「母と女」の2対の対比が同時に鮮やかになることから、ヒカルの歌詞の中で(数少なく)登場する「月」には明確な「女」のイメージが託されてるという説はかなり信憑性が高いなと唸ったのでありましたとさ。今後ますます「女」に磨きを掛けてくるであろう40代の宇多田ヒカルの歌の歌詞、次に月が出てきた時には要注目となりそうです!