無意識日記々

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ラフミックス

「トラックは粗」てなー。そらわからんわ。

照實さんの言ってるのは「ラフ・ミックス」の事だろう。rough=粗い、という意味だ。

ラフ・ミックスは文字通りざっくりとミックスしてトラックを作ってみる事だ。私は現場の人間ではないので伝聞から推測される話を書こう。

ラフ・ミックスを作る理由は幾つか考えられる。をっと、その前に。ミックスとは、録音した素材を一緒にする作業。録音(レコーディング)は基本的に各楽器ごとに別々に録る。ベースはベースだけで、ギターはギターだけで。これがストリングス・カルテットとかだと真ん中にマイクを立てて一遍に、となったりするが、基本は一楽器ごとである。そうやって別々に録音した素材を"混ぜる"のがミックスだ。

で話を戻すと、このミックスという作業はそうシンプルなものではない。技術的にもややこしいが、それ以上に、制作に携わる人間たちがどんな役割を持っているかで変わる。具体的には、作曲者、編曲者、プロデューサー、エンジニアを、それぞれ誰が担当するかで話が変わる。

例えばプロデューサーがエンジニアを兼任している場合。いや実際は"エンジニア上がりのプロデューサー"というケースが多いようだが。この場合ミックスに凝る。凝りまくる。プロデューサーとしてとても使い切れない程の素材を録音させ、その多大な素材から選別をしてミックスをする。使うかどうかわからないパートまで取り敢えず録音しておき、そこから選り取り見取りである。ある意味、こういうタイプのミックスは作編曲作業そのものに近い。

そうでない場合もある。ミュージシャン上がりのプロデューサーで、ミキシングの具体的な技術を持たない場合、「こんな風にミックスして欲しい」と口頭でエンジニアに伝えて、エンジニアが実際にミックスを行ってみる。意志の疎通さえ出来ていれば一発で「いいじゃないの」となる。早い場合だと一曲一日、いや数時間で済む場合もあるようだ。よう働くなぁあんたら。

で、作編曲に携わり且つ楽器を演奏出来る&歌が歌える場合は、簡単なミックスで最初の編曲プランを実際に録音してみる。これがデモ・テープというやつだ。最近は大体WAVファイルとかだろうが折角なので伝統的な"テープ"で呼んであげたい。

デモの段階では自宅で録音したり、PC上で済ましたり、といった"実際には使わない素材で一回構成してみる"のが基本だ。対してラフ・ミックスは、実際の完成品に使う可能性の高い録音素材を使って"試しに・仮にミックスをしてみよう"という時に作られる。

この段階で作るのに、幾つか理由が考えられる訳だ。例えば、専門的な事はわからないが初歩的な卓操作くらいなら出来るというプロデューサーがエンジニアに口頭だけでなく実際にラフミックスを作って提示して大枠のイメージを伝えたり、逆にエンジニアの方が「こんな感じでどうでしょ」と作ってみて提示するのもラフ・ミックスだ。種々のケースがある訳である。

宇多田体制の場合、ヒカル御大が作編曲歌唱、時には鍵盤楽器やギターの演奏までする上にプロデューサーまで兼任している。照實さんはその補佐だ。こういうケースでは、ラフ・ミックスは「叩き台」としての役割を果たす。つまり、実際に一度ミックスしてみて、それを聴いた上で作編曲プランから批判的に推敲する事が可能なのだ。プロデューサーが作編曲者だから。

これから歌入れという事なので、取り敢えず歌を何パターンか録音してみて、ラフミックスとの相性をはかり、時にはミックスの方を変更するプランも出てくるだろう。ぶっちゃけ、この、ヒカル無双体制では、どこまで遡って改変があるか想像もつかない。ラフミックスがまるごと破棄という事態だって有り得るのだ。恐ろしい。


ここからは私の推測だ。今日のヒカルのツイート、「歩道歩いてるてんとう虫見るとハラハラする」―この文の作り方から察するに、今のヒカルは作詞モードだ。恐らく、まだ歌詞が完成しておらず、実際に歌ってみてサウンドにフィットする歌詞を探ってみる腹づもりなのではないだろうか。ヒカルの事だから、歌詞の音韻の変更が作編曲の変更に遡及する可能性も否定できない。歌詞のバリエーションはそれくらい影響がある。この先どうなるかはわからない。ラフミックスが出来ているからといって、そう易々と完成に近付くとは限らない。まだまだ勝負はここからだろう。