無意識日記々

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異時間の歌

久石譲の昔の曲を聴くと、凄いなと思う。シンセサイザーの音色以外、全く時代性を感じさせない。音楽が単独で異世界の時代を作り上げてしまう程の迫力がある。風の谷のナウシカは文明社会が滅んでから1000年後の世界を描いた作品だが、彼の書いた風の伝説が流れてきた瞬間、もうその世界観に引き込まれてしまう。魔法のような音楽である。

何故彼がそういう曲を書けたのか、そして何故書けなくなってしまったかについては興味が尽きないが、追究しても答の出ない問題なのでそれは置いておく。いずれにせよファンタジーというジャンルは、音楽に現実とは異なった世界線を与え得る、という事だ。

EVA劇場版の音楽の主役は鷺巣詩郎だ。ヒカルは2曲半の歌を提供したに過ぎない。そして、いつのまにか2015年の夏になってしまった。先日の"シンジくん"による使徒襲来の日のツイートは10万RTを超えた。こうなる事で、当たり前だがEVAの世界線が我々の日常とは異なる事を再確認する。Beautiful Worldは、2007年の歌であると共に2015年の歌でもあった。

PLANiTb Acoustica Mixの立ち位置はより微妙である。2009年か。こうやって振り返ると、オリジナルはそれなりに"古い"。これは当然の事で、我々の2007年夏のヒット曲であったから。そして、PbA Mixはより映画限定の感がある。CDシングルが出なかったのも大きかった。

桜流しは今現在"保留"な気がする。EVAQは我々に、観る方にも描く方にも様々な宿題を残した作品だった。その中で桜流しだけが超然とその存在感を放っているように思える。震災後と前でこの国の歴史をはかるべきかはわからないが、桜流しは間違いなく2012年の歌であるとともに、EVAの世界の2029年の歌でもある。その強烈な存在感は、それこそ全盛期の久石譲にも匹敵するものだ。しかも、歌がある、言葉がある状態で。しかも日本語である。

言葉の移り変わりは激しい。歌詞は一瞬で古びれる。価値は損なわれなくとも「あの頃の歌だよな」と誰もが思う。桜流しにもそれはあるのだが、同時に、詩としての超然とした美しさがある。そもそも、日本語の歌は突き詰めれば大体フォークになる(という普段からの私の主張)という事を鑑みると、日本語の歌はどうしたって生活の中に溶けていかざるを得ない。それが強みなのだが、桜流しの場合それでいてファンタジーのような異世界世界線の上ででも説得力を持てるのが素晴らしい。大体こういうのはRevoさんみたいに中二病しか落としどころがなく、だったら英語かイタリア語のナレーション入れろよという気になるものだ。

少しだけ物足りない事もなくはない。歌詞に英語が混じっている事だ。総てが日本語だったら凄まじかったのだが、それはまた次の機会の期待としよう。断言する。桜流しは次のシンエヴァ公開時に間違いなく更に輝きを増す。この曲の真価はこれからである。心して待っておく事に致しましょうぞと。