無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

たった12文字分で

キーボードの音色を聴いて「おぉ、『HEART STATION』のヤツじゃないか」となった。軽快に跳ね回るリズムは『DISTANCE』のようだし…とはなったが、それでも少し重々しい流れになるのは『Fantome』の直後だし自然かな。本人の実感としては比較として「随分明るくなったろう」と思ってはいるだろうが。

メロディーラインを一度半音捻ってから立て直す感じ。『Keep Tryin'』の頃と較べれば更に自然に聴かせるようになっている。11年もすりゃ成長するわというけれど間6年空いてるのだし。何より、歌詞との符合が自然過ぎて危うくスルーするところだ。『くものなか』という5文字分のメロディーで大空の大きさや果てしなさ、白い雲の神秘性などを一気に伝える。しかし次。『とんでいけたら』で捻り落としにかかる。この少し卑屈に感じられるメロディーのニュアンスは『たら』という仮定の話、願望と、それが無理であるという事実に対する感情そのものだ。たった12文字分のメロディーでここまで表現できるかという密度の濃さと簡潔さだ。「目には見えるものの未だに信じられない」というフレーゲの名言を反芻したくなる。


聴いた直後に「簡潔な表現の向こうに広がる世界が」みたいな事を感じたのはそういう理由からだ。メロディーと歌詞の符合。今回は余りに綺麗に纏まってしまっているのでその凄味はいまいち伝わりにくいかもしれないが、日本に居る全シンガーソングライターは日々「こういう事ができないか」と夢想して作詞作曲に取り組んでいる。殆ど夢物語みたいな話だ。日本語圏以外の人にも伝わるかな。ここのメロディーを聴かせたあとに歌詞はこんな意味だよと教えたら「確かにそんな気がする」と言ってくれるだろうか。それならば正解だ。凄味という点では伝わっていないが、ただ歌を嗜むという点では別に伝わらなくていいことか。

もうちょっとね、歌の続きを聴いてみないとすぐにはわからない事ばかり。だが、今聞こえている歌詞とメロディーのリアリティだけで既に十分過ぎる程の内容が詰まっている。そこまで力まなくてもいいのかもしれない。今はそういう時期なのだと割り切る事にしよう。