『初恋』の歌詞構成1

『初恋』は歌詞の構成力が図抜けている。アーティストと呼ばれるに相応しいアートの粋が詰め込まれているのだ。


この歌はサビから始まる。漫画で言えばいきなり1ページめから何の脈絡の説明もなくクライマックスの場面を描いてから「なぜこんな事になっているかというと…」と時間を遡って説明する、というあの演出方法だ。『初恋』でもまず、キーとなる場面の描写から始まる。

まず『高鳴る胸』『竦む足』『静かに頬を伝う涙』の3つが描写される。これらは、純粋な物理的現象だ。胸も足も涙も物質である。それらの存在を『高鳴る』『竦む』『伝う』事で認識する。そしてそれらが『私に知らせる これが初恋と』。

この順序が、この歌では重要となる。まず純粋な物理的現象が先にあって、それを感覚で感じ取り、最後に理由を解釈する。この順序がある事で聴き手は感情を情景と共に知る事になる。ただ感情を表現する言葉を並べる手法とは一線を画する事で『初恋』は圧倒的な視覚感覚を聴き手に齎している。その想像力を喚起させるパワーは何物にも代え難い。

こうやっていきなり「場面」を見せる事から曲が始まる。そこから歌はこうなるに至った状況説明を開始するのだ。

1番のAメロは『人間なら誰しも当たり前に』から始まる。この間口の広い、敷居の低い導入の仕方は「入口は広く、出口は狭く」たる宇多田ヒカルの真骨頂だ。当然、メロディーの質もそれに合わせて低く落ち着いた調子で始まる。共通認識を"通奏低音"と呼ぶように、皆に共通する認識について触れる場面ではメロディーは低音になる。過去曲でいえば『Flavor Of Life』などを想起すればわかりやすいかもね。(次回へ続く)