無意識日記々

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『初恋』の歌詞構成5

3回目のサビ(或いは2番のサビ、かな)の歌詞は歌全体の中で転回点、転換点となる場面である。

『言葉一つで傷つくようなヤワな私』とは、2番Aメロの『人のせい』と『受け入れるフリ』を受けての表現だ。何かにつけて目を逸らしてきた『私』が『あなた』という現実と向き合う時に初めて剥き出しになった心は生まれたての如くとても弱々しい。それを『ヤワ』の一言に纏める着想も見事なものだが、ここは様々な過去の歌詞が思い出される既視感がオールドファンを襲う場面でもある。

この、"本来の自分自身を偽る"とか"目を背ける、逸らす"といったモチーフは、『In My Room』と『Never Let Go』に始まり、『ドラマ』と『サングラス』に受け継がれていく。また、『パロディ』を"セルフ・パロディ"として読み直す事も可能だろう。

そしてもう一つ、無垢で無知な状態から知を得る様をラブソングとして描いたという点で『Goodbye Happiness』を頂点とするモチーフが"復活"している事も見逃せない。それを端的に表しているのが次の『二度と訪れない季節が終わりを告げようとしていた不器用に』の場面である。

という内容で構成された2番の歌詞は、過去のヒカルの歌詞を知っていればより確かな実感を伴って響いてくる言葉で綴られている。もとより『First Love』を連想させるタイトルの歌であるからして、歌詞の節々に過去曲を思わせるフレイバーを漂わさせているのはある程度意図的なものだろう。そうする事によって各々のファンが過去に宇多田ヒカルに恋をした瞬間をも想起させれる歌詞にもなっているのだが、流石にそこまでは気が回っていないかもしれないな。

ともあれ、この二番の歌詞において主人公である『私』は自らの心で現実に一歩踏み出す決断をする。それはどうしようもなく不可逆なのだ。