無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

謗られても素知らぬ顔で

昨年末のM-1グランプリ、ミルクボーイが史上最高得点で優勝したのは記憶に新し……いのかな。おっさんの感覚だと1ヶ月前って“ついこないだ”なんだわ。

「コーンフレーク」と「もなか」のネタ自体の強力さも然る事乍ら、大きく印象に残ったのは立ち位置右の内海崇の大らなな喋り口調と滑舌の良さだった。M-1グランプリといえば持ち時間が4分と決まっていて手数で爆笑連鎖を起こすのが優勝への王道とあって皆基本的に凄まじい早口になるものだったのだがその傾向に一石を投じたといえる。スリムクラブのような単発タイプではないのに凄いよね。わかりやすく伝わりやすい。芸事、表現活動の基本中の基本だ。

昨年大ブレイクを果たした漫画/アニメといえば「鬼滅の刃」。最近漸く観始めたところなのだがとにかくこのアニメがわかりやすい。ありとあらゆる点で親切設計なのだ。よくわからないアクション・シーンも全部主人公が“心の声”で解説してくれるので結構ボーッと観ていても置いてきぼりを喰らわない。また、場面場面での音楽の挿入が本当に的確で、今がどんなテンションのシーンなのかいきなりチャンネルを合わせてもすぐに感じ取れる作りになっている。ほとほと感心しながら観始めてるところだ。ネタバレ厳禁でお願い致しますよ。

ミルクボーイにしろ鬼滅の刃にしろ際立っているのは、「わかりやすさ」を技術の粋を集めて結晶化している点だ。単に中身が薄いから提示する情報が少なくてわかりやすくなっているのではなく、どの情報をどう提示すればより伝わりやすいかを吟味し尽くした上でのわかりやすさなので印象が「浅薄」でなく「誠実」なのだ。鍛えに鍛え抜かれた親切設計、とでも言おうか。結果作品全体の印象がブライトで軽くない。丁寧な作り込みの成果をわかりやすさで結実に持ち込む手法は娯楽技法の爛熟を感じさせる。

ヒカルさんに今足りないのはそれかもしれない、とふと思った。いや、最近の歌も十二分にキャッチーなのだが、『traveling』や『COLORS』のような、1回聴いただけで、いや、1回CMを通り過ぎただけで「それか!」と注意を惹き付けるようなブライトな明快さに欠けるというか。『花束を君に』などはじっくりとメロディと歌詞を味わって漸く「……ふぅむ、いい曲だねぇ」と嘆息するみたいなイメージがある。もっと『道』のような聴いた瞬間いやさ鳴った瞬間に「キタ!」と叫べる曲が沢山欲しい。いや、既に『道』あんねんやん、といってしまえばそうやねんけど、こう、もっと贅沢になってみよかなー、なんてね。

そうなのだ。ヒカルはそういう曲を書けなくなったのではなくて、たまたま最近少なくなっているだけなのだ。もしヒカルが2019年のトレンドであった(のだろう)「鍛え抜かれた親切設計」に興味を持てたこなら、きっとブライトにわかりやすい曲を書いてくれるだろう。期待しよう。

なお、あたしは『Passion』大好きっ子なので、ラジオフレンドリーでないわかりにくい新曲がやってきてもそれはそれで存分に楽しませてうただきますので「この裏切り者っ!」とか謗られませぬよう。いえ謗られても素知らぬ顔で素通りしますけどねっ!