無意識日記々

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視聴ストレス(負荷)の話

今年のエンタメの話題は鬼滅の刃があらかたもっていった感じになってるねぇ。

去年の今頃2クール分纏めて観ていちばん印象に残ったのは視聴ストレスの少なさだった。とにかくスイスイ観れる。何をやってるかわからなくて苛々することが殆ど無い。下野紘の喋りには苛々させられたけどそれはわざとそれを狙ってだからね(笑)。今や我妻善逸は一番人気キャラらしい。すげーなそれも。

本来なら、視聴ストレスの低減を目指して作られるアニメ作品というのは内容が癒し系だったり日常系だったりする。作風自体がほんわり味わいやすく出来ている。しかし鬼滅の刃は、内容は浪漫ホラーと呼ばれたジョジョの奇妙な冒険の系統をいくダーク・ファンタジーでグロテスクな描写が幾らでも出てくるものなのに、視聴ストレスが低いのだ。なんとも稀有なアニメだよ。この作品の独自性は、そこにあるのだろう。

そういや去年は「結構毒のある内容をまろやかな喋りでお茶の間に届けた」ミルクボーイがM-1グランプリをとったんだったなー。M-1今年もそろそろか。あ、今週末か? それはまぁさておき。

過激な内容の作品は視聴ストレスも高く、視聴ストレスの低い作品は内容も穏やか、という旧来の先入観を突破して大衆に膾炙したのは、どちらも特筆に値する。

だなんて言ってるけど、ヒカルさんはデビュー当時似たような事をしたんだけどね。それまでブラック・ミュージック(この呼称もそろそろ消えてなくなるかな)の本流だと思われていたR&Bの歌唱法やサウンドを日本語詞の中でどう活かすか、というアプローチを自然体で行った。日本では本格派と呼ばれる音楽はなかなか日の目を見ず、実際に売れるのはそれらのサウンドを薄めて飲み込み易くしてアイドルの皆さんに歌って貰った歌だった。のに、当時、最もコアだと思われていた日本語R&Bのアプローチがいちばん売れちゃったのね。隣でこどもから老人まで世代を選ばず口ずさめる「だんご三兄弟」が大ヒットしていたからそのコントラストは余計に目立った。ミリオンヒットにする為には薄味にしないとダメだよね?ポリンキー並に食べやすくしないといけないよね?(※どっちも佐藤雅彦の作品)というのが当時の日本人のコンセンサスだったのだ。

でも、味の濃さ薄さじゃないのな。わかりやすさなのよな。伝わるかどうかなんだ。伝える為に、どうやって心を砕くか。鬼滅の刃ではそれが徹底されていたのだが、若い頃のヒカルさんの場合はもっと天然だった。単純に本人の性格が優しかったのだ。だから、出来るだけわからないと言われないよう、伝わるように歌った。ホントにそれだけだったんじゃないか。本人も自分のことを八方美人だと言っていたけれど、色んな人を想定して歌うと、自然とそうなったということだろう。

ただ、最近のヒカルさん、歌の中身が強過ぎて、そういう親切さみたいなものが若干物足りない気がしないでもない。優しくなくなったとかではなく、取り組んでいる内容が濃過ぎる為、なかなかそっちまで手が回らないというか。『誰にも言わない』はとんでもない曲だが、じゃあそれが多くの人に伝わったかというとそんな事はないだろう。まだまだあれでは、ヒカルの事が好きな人にしか届いていない気がする。『One Last Kiss』に関しては、そこらへんのわかりやすさや伝わりやすさもひとつ評価の基準にしてみるかもしれません。

……でも、エヴァンゲリオンの主題歌だからねぇ。視聴ストレスを与えまくって伝説になった作品なので、そこで親切になっちゃうのは違うかもしんないねぇ。嗚呼、何だか悩ましいぜ。