私が自分で「今迄の宇多田ヒカルの歌詞の中でいちばん好き」と言ってるだけあって、『気分じゃないの(Not In The Mood)』に関してはどうしても歌詞の話ばかりになってしまっている。だが勿論音楽面も素晴らしい。今回はその話。
特に、
『Hey how are you ?
How has your day been ?
I've been quiet
Just didn't know what to say
Hey how are you ?
How has your day been
I've been quiet
It's just one of them days』
の歌メロは今年のベストメロディ確定なのです(今年まだ9ヶ月残ってるけど)。これぞメロディ・メーカー宇多田ヒカルの真骨頂。
それに引っ張られたのか(年末年始にそんな時間の余裕があったのかどうかは知らないが)、バックの演奏もここで一段ギアが上がる。この曲は7分半の間ずっとセッション風というか、ドラムパターンとコードだけ決めてピアノがずっと自由に演奏を続けているジャズ的な作風なのだが(その割にドラムサウンドは荒々しくてロック~ニューウェイブ的。ヒカルとしては4ADっぽさを出したのかもしれない)、この4分16秒の所から旋律の流れがまとまり始め、それまで散文的に上昇と下降を繰り返していたメロディ・ラインが結論を見出す意志を固めたかのように収束していく。その様は息を呑むほど美しい。ピアノが、ヒカルのヴォーカルのバックでコード進行を担当していた所から、単音旋律へと移行する4:42~5:09(~5:32)のパートの事である。
それに釣られるように矩形波のシンプルな音色のシンセ・サウンドの方からも短いキーボード・ソロが披露される。こちらはヒカルの歌の裏側でず~っと不定形に揺蕩っていたところを、上記ののピアノの旋律のクライマックスを引き継ぐ流れで5:07~5:34のパートに於いて確固たるメロディの山場を形作る。これを最初に聴いたときに「まるっきりデイヴ・ギルモアのギターソロやんけ!」と驚いてしまった。その音の揺らし方、ベンディングは彼のチョーキングそっくりだし、キメで三度五度とせり上がっていく場面も彼の名演の数々を想起させる(あたしは“High Hopes" by PINK FLOYDがお気に入り)。いやほんと、ここのピアノとシンセの共演は世紀の名演奏だと思いますよ。
この名演を誘発したのが、ヒカルによる↑のメロディラインの美しさとイマジネーションだったのだろう。歌詞のみならず、演奏面も他の皆を巻き込んでの奇跡に満ち溢れたとんでもない楽曲だ。〆切に間に合って、本当によかったよ。