なんか前に誰かが「『Time』のスネアが遅れてやってくること」について語っていた気がする。普通なら
ズンッ チャッ ズンッ チャッ
とビートを刻むところを『Time』では
ズンッ チャッ ズンッ ン・チャッ
という風に刻む。最後に「ン・」が入るのがこの曲の独特な所。
これによって通常とは異なるノリ、グルーヴが生まれている訳だが、しかし、ヒカルが「どう? このビート他とはちょっと違うでしょう?」みたいな、カウンター的な発想でこういうことをしてきたとも思えない。「他との差別化」だなんて他者の存在を前提にした奇抜さや奇の衒い方をしてくるような人じゃない。
何が言いたいかというと、他との差別化とは全く関係なくこの『Time』のビートはこうなるべくしてこうなっている、という事だ。で。そこのところを説明しようとするとこれが恐ろしく難しいのよホント。これの解説に挑戦するなんて、無謀なの。
でも、んなこた言ってても仕方がないから、私もその無謀に挑戦してみますか。
前提となるポイントがまずひとつある。『Time』では、各節の歌い出しが、ビートのアタマではなくその前の小節の最後となっている。専門用語では弱起(じゃっき)と呼ばれるがまぁそんなんは覚えなくていい。
例えば、
『降り止まない雨に
打たれて泣く私を』
の部分。ビートのアタマは
『ふりやまない』の『や』
『あめにうたれて』の『に』
となっている。『ふり』や『あめ』といった歌い出しの部分が小節のアタマより前になっているのだ。
これと、さっきの
ン・チャッ
が隣り合う。ここがひとつめのポイントとなる。つまり、通常より遅れて鳴らされるスネアドラムの音(チャッ)と、通常より早く始まるヴォーカル・ラインが交わるように構成されているのだ。
その為、ここの部分は、前段の小節、
『どんな孤独にも
運命にも耐えられた』
の最後尾で展開されるヒカルのジャズ風のアドリブ(『ダララ・ダララ~♪』)が後ろにはみ出してくるのと次の弱起の『降り止まない』が、結果連続して歌われる事になるのだが、その遅れてきたスネアドラムの音(ン・チャッ!)が絶妙なタイミングで鳴らされて曲展開に小気味よい区切りの合図を入れてくれているのだ。アドリブからメインの歌詞に戻るタイミングのこの心地良さは、このスネアのタイミングのずらし(ン・チャッ!)のアイデアによるところが大きい。ここのパート、聴いていてなんかカッコいいな!と思った方も多いんじゃなかろうか。こういう仕掛けが施されているのである。
もうこれだけでも「絶妙!」と絶賛してしまっていいのだが、この曲が真に恐ろしいのは、これとは全く異なる理由で同じアイデアを活用している点だ。まだまだ2つ目3つ目のポイントがあるんだなこれが。
しかし、その2つ目3つ目の解説は、かなり苦労した今回の1つ目のポイントより更に難しいので、次いつ取り上げるかサッパリわかりませんっ。兎に角、凄い作曲術だなぁと途方に暮れている所です今の私。もう2年も前の曲なんだけどねぇ。大好きですこの曲。