無意識日記々

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日常から生まれた“最高傑作”

ずっと気になっているのが。これだけとんでもない出来だと騒がれ続けている、実質“最高傑作”と呼ばれているに近い『BADモード』について、ヒカルが制作上の心的労苦を昔ほどは吐露していない点よ。

2001年、18歳で完成させたアルバム『Distance』は完成後3週間何もせずに引きこもっていたようだし、2002年19歳で完成させた『DEEP RIVER』ではアルバム完成後のプロモーションのほぼ総てをキャンセルした。2009年5月26歳の『This Is The One』も全米発売週に扁桃周囲炎を告白してそのあと9月まで音沙汰が無かった(松本人志のと同じヤツだね)。いやこの時は『点』『線』の編集長まで務めて誰の目にもオーバーワークでしたけども。

だが今回の38歳(39歳)の『BADモード』は発売後も元気にプロモーションに励んでいる。制作して倒れ込んだという情報も無い。確かに、制作途上での労苦はあるにはあった。『Beautiful World (Da Capo Version)』のレコーディングはその一例だろうし、〆切間際も間際の2021年12月28日まで楽曲制作に取り組んでいたくらいなので日程が火の車だったのは容易に想像がつく。LSAS2022で声が出なくなったとか本当に一大事であったろう。そういった事が起こっても、ヒカルの中にどこか、「なんとかなる」とでもいうような、余裕や自信や確信と言っていいのかはわからないが、そういった心的感覚があったように感じられてならないのだ。

圧巻。そう絶賛したくなる瞬間の数々を作り上げながら制作途中にそこまでの気負いはなかった。『DEEP RIVER』の時は「この作品は凄いことになる」という予感と確信のもと、身体の不調も置き去りにする勢いで作り上げたが、今は「我が子との日常」を最優先にしながら、それであってもこの作品を作り上げたのだ。更に言えば、母の死という人生最大の衝撃をそのまま作品にした、ヒカル自身「二度とこんな作品は作れない」と宣う2016年33歳の『Fantôme』ですら、『BADモード』の大迫力の前では露払いかと思えるほどに。

こちらもずっとヒカルの作品に対する「命懸けスタンス」には最大限の敬意を払ってきたが、更にワガママを言えば「それでもヒカルの健康が第一」だというのも先にあった。今は、そのワガママですら叶えてくれているように思える。いつも通りの日常を過ごしながら、それでもここまでの作品を作ることが出来る。玄関先でリラックスするアルバムのアートワークはそのことを物語っていたように思えてならない。(「小川さんち」で撮影されたアルバムジャケットとブックレット写真のことね)

だが、それと共に、いや、その為に、かもしれないが、ヒカルは自らの作品がどこに向かうかの制御を諦めてしまったようにも感じられて…という話は長くなるのでまた次回、かな? 新情報にインターセプトされない限りはね!