無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

No Rain, No Rainbow ... ?

『Beautiful World (Da Capo Version)』の鼻声に関してはヒカルが説明してくれた通りその舞台裏は非常に大変だったようだ。が、結果としてその声質が「失われた少年ぽさの束の間の復活」を感じさせエヴァ全体の終局を表現する役割を絶妙に担っていた。2016年以降のヒカルはそれ以前までとは発声を変えてきていて、どちらかというと母性のようなたおやかさが前面に出る柔らかな歌い方になっていたので、この時限定でまるで2007年頃のような少年ぽさが戻ってきていたようで、禍転じて福と成すというか人間万事塞翁が馬というか、ネガティブだった筈のファクターがうまくいい方に作用した一例であったのだ。

同じくエヴァの終局を彩った『One Last Kiss』も、A.G.クックがベーストラックを入れ忘れてくれたお陰でベースサウンドが人力となり予想外に「人と人あらざるもの」のコラボレートが叶ってまたもエヴァのコンセプトにそぐう結果となっていた。

こういった偶然の失敗やアクシデントや困難を好運に変えていく力。ヒカルは最近もう慣れたもののようだが、はてこの“創作手法”のルーツは何だったかいなと思い出してみると、そうですよ、『FINAL DISTANCE』ですよね。

***** *****

なんかね、すごく特別。レコーディングの現場も魔法にかかってるっぽくて、何かを作り出してるというよりも、昔から言い伝えられてる儀式に立ち会ってるようなフッシギィ〜な感覚に包まれて一週間過ごした。初めて結婚式に出席した時の気持ち思い出しちゃったよ。まぁそんな風に語るとすごくスムーズにいったように聞こえるけど、色々ハプニングや失敗もあって、ほんとに完成させられるかすごく心配だったんだよね。でもなんとなんと!そういうことも全部、逆に歌がもっと良くなるきっかけとなっちゃってさ!素敵なエピソードたくさんありまっせ〜。その度に「誰かに守られてるんじゃねーかっ??」と思った。

https://www.utadahikaru.jp/from-hikki/index_89.html

***** *****

ここの

『色々ハプニングや失敗もあって、ほんとに完成させられるかすごく心配だったんだよね。でもなんとなんと!そういうことも全部、逆に歌がもっと良くなるきっかけとなっちゃってさ!』

ってとこがまさにそれ。そして、この書きっぷりはつまり、この頃(ヒカル18歳)はまだ、こういった“現象”に余り馴染みが無くそれが驚きの出来事であった感触が伝わってくる。なおここで示唆されている『素敵なエピソード』はこのあとメッセでは余り語られなかった。当時のインタビューではどうだったかなぁ? こんときテレビ出なかったからねぇ。いやそれは続く『traveling』も『光』もそうだったけれども。それはさておき。

実際、作曲のみならず編曲面でもヒカルが手を尽くし始めたのがこの曲からだったので、いやもしかしてヒカルさん、編曲上は最初期からこの“創作手法”に手を染めていたというか、沢山やってるうちにそういうことも出てきたとかでなく、「はじめっからずっとこう」なのかもしれませんな。

こういうのをセレンディピティとか呼んだりするのだが、日本語で近い意味は「失敗は成功の母」だろうか。いやこれ元は英語なんだろうけど、普通は「失敗から学んで成功に徐々に近づいていくこと」を指すのだろう。「No rain, no rainbow」ってやつだね。雨が降るから虹が出るんだっていう。でもヒカルさんの場合をこの語で形容するならば「ちょっと待って?今失敗と思ったヤツ実は成功なんじゃない?」という“気づき”のことを指すように思われる。似てるようでかなり違うわね。寧ろあたしはここで「神の見えざる手」に近い感触を覚える。アダム・スミス国富論だ。ヒカル自身は意識してなくても最適な結果を得るための行動をいつの間にかとっている、というね。まぁ捉え方はひとそれぞれだけど、道端の絆創膏を見て「ゴミが落ちてる」と捉えるか「地球を癒してる」と捉えるかで人生変わるよね、と思ったらなるほど如何にもヒカルさんらしい哲学の反映された“創作手法”なのかもしれませんわ。