『誰かの願いが叶うころ』に登場する『幸せ』は次の二節。
『あなたの幸せ願うほど わがままが増えてくよ』
『自分の幸せ願うこと わがままではないでしょ』
こう歌われると「わがままって、何ですかね?」と不安になるので辞書を引く。
【わがまま】:自分の思いどおりに振る舞うこと。また、そのさま。気まま。ほしいまま。自分勝手。「―を通す」「―な人」
ということらしいgoo辞書によると。ニュアンスとして大事なのは「自分勝手」あたりになるだろうか。結局は
あの子が泣いてるよ
みんなの願いは同時には叶わない』
というこの歌の“結論”に吸い込まれていくんだけど、今回の話の流れとしては、アルバムでの1曲前である『Making Love』の
『誰よりも幸せであってほしい』
という、『あなたの幸せ願うこと』をしたばかりの人がこう歌っているという事実に着目したい。
こちらの歌の主旨は、「あたしゃ新天地でのあなたを応援したいと思ってあれこれ心配してんのにもう新しい部屋でよろしくやってんのかよ!」といったところか。つまり『Making Love』は『あなた』を思って様々な決意を新たにする『私』のその様々と一切関係なく『あなた』が元気にやっている様子を描いたもので、いわば『私』が「自分で勝手に心配して色々考えてるのに今のあなたの幸せと全然関係なかった」可笑しさをユーモアと熱さを交えて歌っているわけである。「わがまま」とは若干異なるものの、「自分で勝手に」という点は通じている。これが高じていくと、確かに少し「わがまま」っぽくなるかもしれない─『あなた』に対して「こうあってほしい」という理想像を「自分勝手に押しつける」という意味に於いて。
その時の「こうあって」の部分が「幸せ」になると『誰よりも幸せであってほしい』の出来上がりだ。
で、このままのロジックで進むと、自分自身が幸せになって欲しいと願うことも自分勝手な思いになるのかという疑問が生じるのだが、そもそもの前提とされている規範が「自分の幸せばかり追求する奴は自分勝手でわがままだ。他人の幸せを願う人は利他的で立派だ。」というものなのだ。しかしこれを言ってる人って「だからみんな利他的になって私を利せ。」というのが本音なのだから始末が悪いのよね。そこをヒカルが突いてる訳だが…嗚呼やっぱりこの話は長くなるな。続きはまた次回から。