無意識日記々

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『For you』と母川回帰

もうこの部分は何回でも引用するぞ。

『そうですね、それで3〜4か月ぐらい悩んで。でも、そういう時は釣りをするみたいな感じなんですよ。私の仕事は待つことだと思ってて、自分の海原の時間帯とか海流とか風向き、魚の生態とかもちろんよく知ってるし、どうしたら捕まえやすいか、自分の釣りやすい場所は分かってるんです。だから、そこにとりあえず極力いて待つしかないから、まぁ何とかなるよなとは思っていて。』

https://spice.eplus.jp/articles/320799

これ、ず~っと訊いてみたい事だったんだよね。ヒカルが「どこまで音楽を自由に出来るか」について。そんな中で『私の仕事は待つこと』。痺れたね。依然、基本的には「ままならない」らしい。

そんな中でも

『自分の海原の時間帯とか海流とか風向き、魚の生態とかもちろんよく知ってるし、どうしたら捕まえやすいか、自分の釣りやすい場所は分かってるんです。』

とかなり自信をつけてきているのがわかる。

『まあ何とかなるよな』

なんですもの。25周年を目前にしてここかと。なにしろ持ってる潜在能力が破格なので、ここまでのとんでもない実積をもってしてもまだまだ「片鱗」だもんね。ままならない中での自由さの度合い。2023年の時点でね。もうこれについては毎年進捗を訊きたいよ。

折角釣りの喩えが出てきたので、いつも言ってる話の復習をしとくか。

『For You』はアイデアが出てからヒカルが納得のいく出来になるまで2年かかっている、というのは本人が昔語ったこと。私はこれを「最初の瞬間に取り逃がした」のだと解釈している、という話を何度かしてきた。コード進行だけを追っていると、何かその取り逃がした影の欠片が瞬くというかね。

ただ、一旦取り逃がしたものを2年経ってから「捕まえ直せた」ものにも独特の味わいがある。最初の瞬間に捉えたモノは素直で煌びやかですべすべのお肌で一目惚れを誘いがちだが、こうやって、鮭のように母川回帰した楽想は、外の荒波を越えて生き残ってきた逞しさというか、傷を負ったものを治した痕が生々しくも愛おしい感じが…ってそうなのよ、『For You』の歌詞そのものなんですよ、この曲の成り立ちって! 『傷つけさせてよ 治してみせるよ』というのは、一度解き放ってしまったこの曲が手許にもう一度戻ってきた時のフィーリングがそのまま捉えられた歌詞なのだ。めげずに生き抜いた強さの歌なのよ。

最初の邂逅で捉えた華やかさはないけれど、滋味深く奥行きを感じさせるこの曲調…それとこのヒカルの「釣りの喩え」は特によく呼応する。今までの経験を踏まえて、最初の邂逅を上手く捉える術も沢山身につけつつ、また母川回帰の魅力を持った曲も書いてくれるとちょっと嬉しい。嘘。かなり嬉しい。もっと極めてくると、敢えて最初は見逃して生まれた河に帰ってくるのを待つことも出てくるかもしれないわ。可愛い子には旅をさせろとか、獅子は我が子を千尋の谷に落とすとか言うからね………いや、やっぱそれはなんかちょっと可哀想かな。なんとなく悩ましいわ。

…大人になったら逆に出来ない事なのかもしれません。こどもも居ないのにそう思っちゃうわ私も。居たら尚更だわきっと。