無意識日記々

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「“初の”ベストアルバム」

さて今回のベストアルバム発売の触れ込みはこうだ。

宇多田ヒカル デビュー25周年を記念し 2024年 初のベストアルバム「SCIENCE FICTION」を発売」

https://www.utadahikaru.jp/news/ke6hfjiqnv/

そう、「“初の”ベストアルバム」なのである。“初の”。当然、次のような疑問が呈されるだろう。

「『Single Collection Vol.1』と『Single Collection Vol.2』はベストアルバムではなかったの?」

ってね。これについては、非常に単純に、私の知る限りに於いては、

「(ヒカルや照實さんも含めて)公式がシンコレ2作品をベストアルバムと呼んだことが1度もない」

という事でほぼファイナル・アンサーかと思う。新聞や雑誌やテレビやラジオといった媒体から情報が発信される際にシンコレのことをベストだと呼称した人が居たかもしれないし、またファンやリスナーがそう呼んだことも沢山あったかもしれないが、作って出した方はシンコレをベストだと見做した事は(私の知る限り)1度もないのである。勿論、ヒカルの意に反した『UTADA THE BEST』は最初から数えていないよ。

なので、出す方の「つもり」としては紛れもなく「“初の”ベストアルバム」で何の間違いもない。シンコレをベストだと解釈した(い)人はそれはそれで構わない。そういう人は今回の『SCIENCE FICTION』を3枚目のベストアルバムと呼べばいい。『UTADA THE BEST』も加えたいなら4枚目と呼んで構わない。そう思ってる人同士でなら問題なく通じるんだしな。ただ、お互いに数え方が異なる可能性をアタマに入れておけばいいだけの話。

てことで、当日記では公式準拠で行きますね。シンコレ2枚はベストアルバムとは呼ばないし、『UTADA THE BEST』は数えないし、『SCIENCE FICTION』は「“初の”ベストアルバム」と見做す。そこは踏まえておいてうただければ。

さてでは、もう少し突っ込んで「何故公式はシングル・コレクションをベストアルバムと呼ばないか」について考えてみようか。世の多くの人たちはシンコレ2枚を「宇多田のベスト盤」と見做しているケースがとても多い。なのにそれに流される気がないのは何故なのか。

これはもう至極単純。彼らは徹頭徹尾「作る側」だからだ。制作に臨む態度が、シンコレとベスト盤ではかなり異質になるのである。

まず、選曲が自動的かどうかでベストとシンコレは別れる。Automaric or not ? ってこったね。

その作品が「シングル・コレクション」であるなら、選曲は自動的に決まる。シングル盤でリリースした曲をただひたすら並べるだけなのだから当たり前だ。

(…とはいえ、「どこからどこまで並べるか」に関しては、少し自由度がある。実際、2004年に『Single Colection Vol.1』に2003年発表の『COLORS』が含まれるかどうかは当時注目だった。その時点ではまだシングル盤のリリースのみで、どのオリジナル・アルバムにも収録されていなかったからだ。結局はシンコレ1に収録されたのだけど、結果同曲は「先にシングル・コレクションに一旦収録されておきながら、後に何年も経ってからオリジナル・アルバムにも収録された」稀有な楽曲となった。

また、映画の上映タイミングによっては『誰かの願いが叶うころ』も収録されていておかしくなかった。シンコレ1の発売日が2004/3/31で、同曲のシングル盤の発売日が2004/4/21だったからね。僅か3週間の間隔だ。勿論、先にシンコレに入っちゃうとシングル盤売れなかったろうから入れるならシングル盤先行発売になってたろうが。)

…と、いうことで、多少の揺らぎは有り得るものの、基本的にシングル・コレクションというものには「選曲作業」が存在しない。クリエイティブなフレイバーを主張するとしたらマスタリングと曲順決めくらいだ。

実際、シンコレ2枚では曲順にかなりのこだわりがみられる。『Single Collection Vol.1』では、1曲目が『Automatic』ではなく『time will tell』だ。普通に考えると宇多田ヒカルの代表曲といえば『Automatic』なのだから1曲目は間違いないよねとなるところを引っ繰り返してきた所に、携わった制作陣のこだわりや矜恃が感じられる。また、『Single Collection Vol.2』ではVol.1とは反対に時系列を遡る順で楽曲が収録された。ここらへんも、ただシングル曲を並べるだけという芸の無さをよしとしない制作陣のこだわりが現れていた。

そう、このように、制作陣の皆さんの気持ち&心持ちが、選曲がAutomaticなシングル・コレクションからですら節々に滲み出まくっていたのだ。俺たちは惰性で商品を出すなんてことはしない。どこであろうがチャンスがあればコンテンツがよりよくなる方法は無いか、それをどう実現するのか、常に頭を捻ってるんだぞ、というアティテュードが端々から垣間見られるのである。それが25周年を迎えた「チーム・宇多田ヒカル」を構成するスタッフの皆さん、制作陣なのだ。

そんな矜恃と熱意に満ち溢れた方々が、今度は選曲の自由度が格段に増す「ベストアルバム」に取り組もうというのだから、シングルコレクションとは「大いなる差別化」が図られるに違いないのである。そんな彼らのスピリットからして、故に、『SCIENCE FICTION』を「“初の”ベストアルバム」と呼ばない世界線は、なかなかに有り得ないのでありました。制作して世に問う方としては、ね! 繰り返しになるけれど、受け取る方は、自由に受け取れば、いいだろう。

そしてそして、さっきから言っている「制作陣」とか「スタッフ」に、今回は『Single Collection Vol.1』の時とは異なり&『Single Collection Vol.2』の時と同様に、ヒカル自身が大きく関わっている可能性が非常に高い。故に、『SCIENCE FICTION』は、通常でいうところの「宇多田ヒカルの新作」とは呼ばないかもしれないが、「宇多田ヒカルによる新しい創作物」となる未来はかなり高い確率で約束されているとみるべきだろうね。次回はそこらへんの所を突っ込んで考えてみたいわ。