無意識日記々

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桜流しの特異的な構成について。

桜流しについていちばんの驚きは、ヒカルがこういう特異的な構成の曲をシングルとして(配信とDVDだけだけど)リリースした(する)事である。

普通のPopソングは構成が決まっている。イントロ〜Aメロ〜Bメロ〜サビ〜繰り返し〜間奏〜もう一度繰り返し〜アウトロ、みたいな具合に。勿論サビから始まったりして多少のバリエーションはあるが、定型的である事に変わりはない。これは決して悪い事ではなく、交響曲だって様式は決まっている。ハイドンの曲なんてどれがどれだか区別がつかない…のは私が聴き慣れていないだけなのかもしれないが、兎に角、「型」がある事によって書き手は楽曲を量産できるし聴き手も初めて聴く曲のポイントが掴みやすい。結構Win-Winな関係である。

宇多田ヒカルも基本的にはそうだった。誰よりも日本語曲の王道を期待されているのだし、実際Prisoner Of Loveなどは様式的期待に120%応える事で今の高い支持を確立している(繰り返しになるが、桜流しまでの今のヒカルの楽曲で人気が高いのはFirst Love,Prisoner Of Love,Goodbye Happinessの3曲である。UTUBEの再生回数等を参照のこと)。ヒカルは奇を衒うだけのサプライズを盛り込んだりはしない。「音楽に関しては一生AutomaticとFirst Loveの人でも構わない」と16歳の時点で言い切れる人だ。同じ歌を末永く歌い続ける覚悟は出来ている。その証拠に、First Loveはどのライブにおいても歌唱演奏共にスタジオバージョンをかなり忠実になぞる事が多い。それだけ期待に応えるのを厭わない人なのだ。

そういう人が、桜流しのような初聴の人には全くメロディーの予測がつかない、聴き終わった後も構成が飲み込みにくい楽曲を、近年にない注目を集める中―その注目度の高さは序破やラスフレどころではなく、花より男子2以来だったと言っていいんじゃないか―で発表してきたというのは、物凄い度胸である。ここまで作品に対して(映画に対しても、楽曲に対しても)真摯で誠実に向き合ってくるとは、期待も予想もしていたが、こうやっていざ実際に眼前に楽曲というカタチを伴って提示されるとグゥの音も出ない。ただただ絶句、である。

この楽曲の構成を、無意識日記を読むまで掴めていなかった人も多かろう。というか、こちらも楽器陣のディテールから入ったので実はまだ全体の構成については明解に書いている訳ではない。ひとまず、前半の上昇と降下で編み上げられた分散和音が単和音の連打に収束していき、後半の低音で奏でられる主旋律と重なり合う、という楽器陣の背骨の部分の構成だけは頭に入れて貰えたと思うが、楽器陣は他にもまだまだある。ドラムの切り込むタイミング、エレクトリックギターの左右の振り分け、高音から低音までカバーする弦楽器隊、方々で仕事をする効果音の役割など、まだまだ語るべき点が山ほどある。そして勿論、この楽曲最大の美点であるヴォーカルについても語り尽くさねばならない。まだまだ遠い。何しろ、こうやってリスクをとって特異的な展開の楽曲を成してくれたのだから解説をする方も従来の様式に対する共通認識を利用した説明のショートカットが出来ない。いちから説明しなければならない。それだけにやりがいがあるといふものだ…けれど今日はもう遅いのでこ
のへんで。むにゃむにゃ。まくらさん…