無意識日記々

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「Letters」

椎名林檎の"Letters"は「Letters」だ。文字通り、ね。

浜崎あゆみの"Movin' on without you"が「パブリック・メッセージ」なら椎名林檎のそれは「プライベート・メッセージ」だ、と書いた通り、この"Letters"はユミちんがヒカルちんに宛てた私信のようなものである。

この曲の曲名が複数形の"Letters"である理由は何か。letterを言葉と訳すなら言葉たち、つまり文字によるやり取りそのものを表している、という解釈がひとつ。もうひとつの解釈は、手紙が何通も、という意味での"Letters"である。

歌詞を思い出すと、「いつも置き手紙」というキメのフレーズがある。これは、手紙のやりとりがいつも一方通行である事の示唆であろう。

ここは少々、アイロニカルである。本来、この歌では主人公が"君/あなた"に対して特別な感情を抱いている筈だ。そして、君/あなたの方はどこかぶっきらぼうで、こちらの感情を斟酌してくれる気配もなく…という感じで、気持ちの上では一方通行なのだが、実際の具体上では、手紙を送ってくるのはいつも君/あなたの方なのだ。あまつさえこちらは『忙しいと連絡たまに忘れちゃう』とまで言っている。結構捻れている。

これを林檎嬢が歌う事で、更に捻れがひとつ加わる。仮に原曲が林檎嬢との事を(一部でも)歌った歌だとすれば、その相手の気持ちを汲んだ上でこの歌を"そっくりそのまま返す"タイミングが今だったのだ、という解釈もできる。『ひとりでも大丈夫だと』が『ひとりでも大丈夫と』に変わったのも、ここだけが元々自分の言葉だったから、裏返しの楔のようにここだけ最初から捻っておいたのだと考えれば、ほんのちょっとだけわかりやすい。

大橋トリオの"Stay Gold"に対して、女言葉を男が歌い切れたのは凄いと絶賛したが、この"Letters"はもっと難しい。手紙の送り手と受け手が逆転しているのだ。これが成立するのは、お互いが片思いを抱いている時だけ。何だか虹色バスの『皆がおんなじように思ってバスに乗っている、"誰も居ない世界へ私を連れて行って"と』に通じる"孤独感の共鳴"を感じるが、Lettersの2人と違って、ユミちんとヒカルちんは別れてしまう気持ちは更々無い。『憶えている最後の一行は「必ず帰るよ」』なのだから。このカバーは、"2人"のこの約束を確認する私信のやりとり、Lettersなのである。