無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

「なる」と「する」⑦

雑誌「Invitation」2006年5月号での宇多田ヒカル浦沢直樹対談でヒカルが言っていた「5歳の時に出逢ったモンスター」は、2013年8月26日の『Message from Hikki』で照實さんが圭子さんについて「この感情の変化がより著しくなり始めたのは宇多田光が5歳くらいのことです。自分の母親、故竹山澄子氏、に対しても、攻撃的な発言や行動が見られるようになり、光と僕もいつの間にか彼女にとって攻撃の対象となっていきました。」と書いた事と照らし合わせると、恐らくその状態になった圭子さんと邂逅した事について触れたものなのではないかという推測が立つ。圭子さんが直接モンスターというよりは、そうなるに至った人間と人間社会の業のようなものを指してモンスターと呼んでいるようには思うが。クリムトの大作「ベートーヴェン・フリーズ」の中央に鎮座する身の毛もよだつ荘厳なテュフォンのように。

5歳の幼子にとって母親の姿形をした人が急に「知らない人」になるのは恐怖と当惑以外の何ものでもなかったろう。一方で同じく照實さんが「感情の変化が頻繁なので、数分後にはいつも、「ゴメン、また迷惑かけちゃったね。」と自分から反省する日々が長い間続きました。」と述べているように、普段の母の姿もまたそこにあった。なんとも、やるせない日々だったのではあるまいか。

26年前の今日その3人からなるユニットであるU3の唯一のフルアルバムが発売された。当時9歳のヒカルの歌声も収録されている。既に圭子さんの症状は進行を始めていたのだろうが、それでもこの3人は家族として作品を残した。以後もヒカルのマネージメント役としての圭子さんの元気そうな姿は折々にメディアに登場している。一方でこのような葛藤を持ちながらヒカルはミュージシャンとして独り立ちしていくのである。…ということで、次回から前回の続きになるかな。