無意識日記々

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言いやすいとこがいいね

アルバム『BADモード』の本編最後を飾るのは『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー』。『BADモード』や『気分じゃないの(Not In The Mood)』同様Floating Pointsことサム・シェパードとヒカルの、最早“共作”と言っていいだろう、2人の力量が遺憾なく発揮された1曲である。12分弱に及ぶ、リミックスを含めてもヒカル史上最もランニングタイムの長いトラックとなった。

この曲の評判の高いこと高いこと。どのレビューを読んでも大体絶賛である。私も同感だ。よくもまぁこれだけ次から次へと次のアイデアが出てくるものだなと。

恐らく、これはかなりの部分サムの力に依っている。というのは、ヒカルは普段こういう“逐次的”な曲作りをしないからだ。このトラックは「こう来たら次はこう、そう来たら次は…」の繰り返しで出来ているように思える。恐らく、アタマから順番に作っていったのではなかろうか。

ヒカルは、全体の構成を決めてから細部を詰めていくやり方をとるのが通常だ。特に作詞面においては、例えば『COLORS』の時のこのメッセを参照してみよう。

『ついにおととい!本格的なスタジオ生活が始まった途端、作詞が急進して、なんと5分くらい前に(多分)書き終わった(と言いつつ歌入れする直前までちっちゃーなことでウダウダウタダダ悩むだろうけどさ)(だって3Cの頭に2小節足して盛り上げることにしたからその分つめこめる字数が増えたのはありがたいけどそこは1Cと2Cの冒頭と同じモチーフでキレイにひねった方が詩的にまとまって良いのかそれともせっかく2小節足て最後の大きな転機となる場所なんだからアクセントがもっとつくような、それまで登場していなかった新鮮な表現を使った方が印象的で歌の世界が広がるかな、それって私のよく使う手なんだよね、うーーーーんやっぱり最初に考えた言葉にしようかな、いや!!いいの! さっき決めた方でいいの!!だってこれなら1Aから1A'にかけての問題提起に対する答えみたいになるし、全体の構造としてはきれいにまとまるじゃない

か!←みたいなことを延々と、、、)』

https://www.utadahikaru.jp/from-hikki/index_84.html

……と、こんな風に全体を眺めながら細部を詰めていくやり方をするのがヒカルだ。これは作詞の話だが、ヒカルの作曲は常に歌詞と連動しているから曲についてもある程度そういう俯瞰的な目線で構成を決めている筈である。したがってこの『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー』にみられる、まるでジャムセッションがどんどん盛り上がっていくような展開は、サムの個性が出たとみるべきだろう。今までに無い新鮮な作風でアルバムの最後を占めるだなんて、ほんと徹底的にチャレンジングな作品だなーもー。大好きぃぃ。何度聴き返しても楽しいぜっ。

余談だが、英語版の『Liner Voice+』によると最初地名はマルセイユではなくてそこからほど近いフランスのカシ(カシス/Cassis)という港町だったらしい。しかし、「メロディの尺に合わない」とかいった理由でマルセイユに変更したんだと。マルセイユってのは行きやすいだけじゃなくて言いやすくもあった訳ですね。ちゃんちゃん☆