無意識日記々

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ビルボードにヒカルのコーチェラインタビュー!

BillboardのHPに例のヒカルのコーチェラ出演の記事が掲載された。なんと、ライブレポのみならずヒカルへのインタビューも込みで!

"Hikaru Utada Makes Festival Debut at Coachella With 88rising: Interview & Recap

Their showcase set with 88rising artists included hits old and new."

https://www.billboard.com/music/music-news/hikaru-utada-coachella-interview-1235063847/

これは訳してやらねばと意気込もうとしたらもうちゃんとビルボード・ジャパンの方に翻訳記事が出ていた。

「<コーチェラ2022現地レポ&インタビュー>宇多田ヒカル、初のフェス出演で見えた世界とつながることの意義」

https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/111133/2

しかもこの記事ほぼ英文記事の逐語訳となっているので私の出番はなさそうだ…と思いかけたんだけど、看過できない訳文が含まれていたのでそこを指摘しておきたい。

誤訳ではない。日本語訳としては間違っていないのだが、読者に誤解を与えかねない(っていう言い方、謝ってない謝罪文に使われがちなヤツだな…)表現になっているのだ。かなり後半のこの箇所である。

【今回88risingとコラボレーションを行った理由については、「ショーンの情熱ですね。それに、今まで日本以外のアジアのファンと直接交流することがあまりなくて……それと、デビュー当時から多くのアジア系アメリカ人にも聴いてもらえてた、支持してもらってたってことを知らなかったんです。知らなかったことが信じられないくらい。今まで触れることがなかった自分自身のアイデンティティーの一部とやっと結びついたような気持ちでした」と説明した。】

ここの特に「デビュー当時から多くのアジア系アメリカ人にも聴いてもらえてた、支持してもらってたってことを知らなかったんです。知らなかったことが信じられないくらい。」の部分を読んで、熱心なヒカルファンの中には違和感を持たれた方もいらっしゃるのではないか。ヒカルがファンのことを知らなかった?そんなことある?って。

ここの原文はこうなっている。

“I haven’t really been in touch with my Asian fans directly outside of Japan…and even the Asian American people who are familiar with me, I didn’t know that there was so much support. I just didn’t have any opportunities to really know about it."

私が訳そう。

「私は(今まで)日本以外のアジアのファンのみんなと実際に直接触れ合う機会が全然なかったの。私に近しいアジア系アメリカ人のみんなのことでさえ(よくわかってなかった)。(まさか)こんなに沢山応援して貰えてただなんて知らなかったんだ。こんなに沢山の応援があるってことを現実に知れる機会がなかったってだけなんだけどね。」

つまり、「おまえら居るのは知ってたけどここまで多いのかよ!」っていうことをヒカルは言っているのだ。なのでここのポイントは「人数を少なく見積もってた」ことと「実際に目の当たりにしたことが無かった」ことの2点なのである。ビルボードジャパンの訳文の中では確かに「多くのアジア系アメリカ人」という書き方がされているので訳としては間違っていない。だが、これふらっと読んだら宇多田ヒカルアジア系アメリカ人のファンの存在をまるきり認識してなかったように読まれちゃわない? そうなってしまうと、それは幾ら何でも事実と異なる訳である。

あたしがこんな風に「異なる」と言い切ってしまえるのは、この記事の最後にこうあるからだ。

"And with things like social media and online interaction with fans, I’m aware, I get so much reaction from non-Japanese fans. I really feel the buildup when I do anything online.”

あたしが訳すとこう。

ソーシャルメディアみたいなものとか、ファンとのオンラインでのやりとりがあるので、私はたくさん日本以外から反応を貰ってる事に気がついています。オンラインで何かをする時には、今までの積み重ね(の大きさ)を本当に感じています。」

そう、宇多田ヒカルは最初期から十数年間、世界中からの『Mail To Hikki』を、スタッフの検閲無しに、直接“総て”“自分の目で”確かめて読んできた鬼のような根性とファンサービスの人なのだ。当然、アジア系アメリカ人のみんなからのメールも受け取って1通残らずきただろうから、その存在を知らない訳がないのである。その点を誤解させかねないビルボードジャパンの訳文は、そういった過去のヒカルの頑張りを無視させかねないものなので私は引っ掛かってしまったのでした。繰り返すが、誤訳ではない。ただ、誤解を生みやすいだけである。訳文を即座に掲載してくれた事に関してはビルボードジャパンに非常に感謝している、と強調しておきたい。

あと、ヒカルもちょっと言葉足らずだったかもしれないね。「今まで、ハワイ~アメリカ大陸~イギリスではプロモーションイベントやライブコンサートをやってきたからそこでのアジア系の人たちの存在は直に見てきてるけど、肝心のアジア地区でのプロモーションイベントやライブコンサートが皆無だったからそこのところのスケール感がよくわかっていなかった」という話をしないと、取材者に言ってる意味が通じにくかったのでは? 今回コーチェラでアジア系アメリカ人のみならず世界中からの参加者があったろうことも付け加えないとわかりにくいし。まぁそんなとこですわね。