前回の続きはまだ今の私には手に余るのでまた今度にするとして。(これ延々書かないヤツだ…)
『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー』は同じ歌詞を延々繰り返すイメージが強いのだが、ただ1箇所だけ、この12分弱の中で1回こっきりしか出て来ないメロディと歌詞がある。それが、
『In the twilight
In the sunshine
In the twilight
In the sunshine』
の段落である。2:34に1回出て来て、こうやって2回繰り返したのみでこのあと一度も登場しない。非常に特異な存在感を持つフレーズだ。
意味は、そのままだと
「黄昏の中で
陽射しの中を
夕闇の中に
陽の光の中へと」
みたいな感じなのだが、私にはどうしてか、この歌詞とサウンド、それにメロディの具合からしても
「夕暮れ時に
朝焼けの中を
日が暮れていく
朝の陽射しの中を」
なのだと思えてしまう。そう、ただの太陽からの陽射しなだけでなく、これは朝のこと、夜明け前のことだと感じられるのだ。つまり、このパートの歌詞は、明示されていないが、“夕焼けと朝焼けの対比”なのだと。
これは、全体の歌詞の流れからすると、ちょっと変だ。この歌はロンドンとパリからマルセイユに向かう歌。それぞれ飛行機だとロンドンマルセイユ間が2時間弱、ロンドンパリ間が1時間半弱だそうなので、正直夕焼けとか朝焼けとか、あんまり関係ない気がする。普通に昼に出て昼に着く距離だから。
それでも私がここを「朝と夕の対比」だと、しかも飛行機から見た景色に違いないと言い張りたいのは、極々個人的な感覚の話でしかないのだが、このパートを聴いてアイアン・メイデンの「カミング・ホーム」というバラードを思い出したからだ。
数年前まではたまに音楽ニュースでも取り上げられていたから御存知の方もいらっしゃるかと思うのだが、英国のメタルバンド、アイアン・メイデンのヴォーカリストはプロの飛行機パイロットで、ツアーの際機材と関係者をジャンボジェットに積み込んで自ら操縦して世界を回るという規格外の所業をやってのけていた(今はもうしてない。定年だそうだ。)。
そんな彼が飛行機に乗った際の景色を描いたのが件の「カミング・ホーム」で、例えばこんな歌詞がある。
Coming home
When I see the runway lights
In the misty dawn
The night is fading fast
deepl先生に訳してうただこう。
帰路につく
滑走路の明かりが見えたら
霧の夜明けに
夜が急速にふけていく
ふむ。原曲の情緒は少し足りないが、こんな感じだ。あたしはマルセイユのパートを聴いて、この曲の描く風景を思い出していた。こういうロジックでない連想に、私は説得される方なのだ。
うん、確かにこの歌に夜明けと夕暮れの対比はおかしい。しかし、だからこそたった一度しか出て来ないのではないかなぁと。いちばん魅力的な歌詞とメロディーだと思うものこの歌の中で。
多分だけど、ヒカルは今まで数え切れないくらいのロングフライトを経験してきているから、夜明けの飛行機も夕暮れ時の飛行機も乗ったことがあるのだろう。その時の感覚を、このパートに封じ込めてあるのではないだろうか。ただ、それは1時間半とか2時間で着いてしまうこのトライアングルな3箇所ではそんなに起こり得ない事の為、少し控えめな使い方になってしまったのではないだろうか。勝手な連想からの勝手な推測だが、なんだかいつもの推理より遥かに当たってそうな気がするんだよね。皆さんはどうですか? このパートを聴いて、夕暮れ時だけではなくて、夜明け頃の空気感を、少々感じませんでしたか?