無意識日記々

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宇多田ヒカルがずっと思ってる『信念』

さてではその、『40代はいろいろ♫』でのヒカルの「まとめ」の発言を実際に振り返ってみよう。0:58:30過ぎくらいだったかな。なんかそこらへん(笑)。

https://youtu.be/V9HhFr0-Klg

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そう、あたし、人間が、みんな、おんなじだって思うの。たぶんあたし、自分がその証明になってる気がして嬉しいの。色んな国とか背景から来てる人、いろんな環境で育ってる境遇の人とか、いろんな年代を生きてきた、いろんな時代を生きてきた人が、こんだけ多く─あたしだけじゃなくていろんなミュージシャンとかアーティストもそうなんだけど─が、同じ私が発する何かに反応してくれるっていうことは、あたしが、ずっと思ってる信念("My Main Core")の、『人間が感じる感情はみんな同じ』? きっかけとか出来事とかは違っても、いろんな人生があっても、根本でみんなが感じるもの、っていうのは、ほんともう、みんな同じだってホント思うの。だから、それを、こう、その気持ちを忘れずに、こう、これからもやっていきたいなと思います。

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どうだろうか。いつも誰に対してもわかりやすく喋るヒカルがなんだがここで唐突に「結論だけ」を話し放ったので最初聴いた時はきょとんとしましたよ。余りに平易な言葉で、しかしこれを初聴で理解するのはかなり厳しいことを、やおら平然と話すもんだからねぇ。

これは、今週私がここまで解説してきた言葉を使えば、人の受動性を突き詰めていけばたったひとりの「私」に集束されていくのならば、では更に「そこから先」を突き詰めていけばどうなるかって話をヒカルはしたんだな、ということになる。

今ここで外界の何かに反応して何某かの感覚や感情を生起させている受動的な「私」は、外の世界に対して出来ること即ちもたらせる変化を失えば失うほど単一の存在になっていく。真のアイデンティティってヤツだね。じゃあそこから先はっていうと、もっともっと透明に、抽象的になっていく筈だ。

本当に、真に何も変えられない何かというのは、突き詰め切ると他の何とも区別がつかない存在になっていくと思うのね。どれだけ受動的になろうと、ベッドで寝たきりであらゆる運動神経が断絶され感覚神経だけの存在になろうと、その人が「いまそこ」に居るという時間と空間はひとりひとり違うはずなのですよ。どれだけ心を「同じく」してようが、例えば2011年3月11日という日の午後3時に津波の襲う街に居たか居なかったかでその後の人生の有無まで変わってしまう訳なのよ。その意味で、人の持ってるそれぞれ固有の時間と空間ってのはその人にしかない、その人の持つ能力であり才能であるはずなんだ。それによって生死まで変わってしまうんだから最大影響の能力と言ってもいい。

だけどヒカルはこれすら超えていこうとしている。人々に固有の時間と空間まで捨象してしまえば、どの「私」も全く同じ「私」でしかなく、そこに区別は存在しない。そこまで突き詰め切ると確かに『人間が感じる感情はみんなおんなじ』になる。

ヒカルの言い方を動画でよくみてみよう。ヒカルは「ほぼ同じ」とか「極めて似ている」とかいう“程度の問題”を言っているのではなく、本当に、全く、何ら一切の区別が存在しないという意味で「100%同じ」ということを言いたがっているかと思われる。なかなかに微妙なニュアンスだが、私にはそう感じられた。

この領域に到達するには、人々が人格を分裂させている能動性と能力を、固有時間や固有空間も含めて思いっ切り捨象せねばならず、それを「表現活動」を通じて成し遂げようとするのはまさに身を引き裂かれるような困難を伴うだろう。表現活動って、出来ること、変えられることの集積だからね。歌えるとか曲が作れるとか楽器が演奏できるとか絵が描けるとかお話しが綴れるとか鋳造が出来るとか、まず何かの技術、能力、能動性がないと話にならない。そしてヒカルはそういった多様な能力や技術を持ちながら、受動性の窮極到達目標である「みんな同じ」という境地にまで辿り着こうとしているから凄まじい…

…というか。ヒカル自身はもうそこに既に居て、如何にそれを我々に伝えようかと毎日腐心してる段階なのかもしれないな。リラックスしたイベントだと思っていた『40代はいろいろ♫』が、このヒカルの『信念』発言で今後の人生の所信表明演説機会に生まれ変わった。いや、そもそもそういうつもりの時間だったということか。少なくとも今後10年、そして恐らく我々全員が死ぬまで、いやいや我々全員死んでからも永遠にか語り続けられるであろう宇多田ヒカル生涯のテーマがこの「みんな同じ」発言に集約されている。何度も動画をみてそのニュアンスを心に刻み込んでおいて欲しい。今後どの歌もそこから生まれてくる筈だから。いや、今までずっとそうだったのかも、しれません。