無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

原作者がリミックスをライヴで歌った意義。


さてさて先週からの続きを。



『DISTANCE (m-flo remix)』をヒカルがライブで歌ったのは「SCIENCE FICTION PROJECT 」にとってかなり象徴的な出来事だった、という話。


バージョン違いをライブで歌うといっても、例えば『FINAL DISTANCE』や『Flavor Of Life -Ballad Version-』を歌うのとは意味が違ってくる。これらはあクマで作曲者本人であるヒカルがリアレンジしたものであって、オリジナルからの変化は謂わば“連続的”なものだったといえる。テンポを落としてリズムを少しずつ抜いていって出来上がった、そんな感触。


一方、m-flo remixは、その名の通りm-floの(TAKUさんの)楽曲だ。宇多田ヒカルの作り上げたトラックを一旦要素に分解して再構築している。つまり、連続的というよりは離散的、断絶的な変化で作られたトラックだ。わかりやすいのは冒頭で、オリジナルの『DISTANCE』の軽快なテーマ・メロディから素直に始まったと見せかけながら(フェイントをかけて)、TAKUさんがヒカルのヴォーカルをサンプリングして切り貼りして(最近はVocal Chopって言うんですってねぇ)全く新しく作り上げたテーマ・フレーズにバトンタッチする。ここを起点に、オリジナルのヴォーカル・ラインをそのまま残しながら、異なるサウンドと異なるリズムを使って極めてテイストの違うトラックに仕立て上げている。如何にもリミックスらしいリミックスといえる。


なので、最早このトラックはTAKUさんの楽曲なので、ライブでヒカルが歌うと立ち位置としてはカバーソングに近くなってくる。違う角度から言葉を当て嵌めるなら、「昔自分で書いた曲が元になってるはいるけれど、殆ど他人の曲として歌っている」事になる。故にライブでヒカルが歌う際に、作詞作曲当時の思い入れや歌い分けみたいなものには拘っておらず、そのサウンドとリズムに乗ってグルーヴとフィーリングに則りながらヒカルは歌っていた。最早『FINAL DISTANCE』とは対極のアプローチ。『UTADA UNITED 2006』ではあんなに大切そうに、一語々々、一音々々集中して歌ってたのにな。


そのアプローチの仕方が、その『DISTANCE (m-flo remix)』の直前に歌われた『For You』にも適用されていたように思われたのだ。過去の自分をまるで他人のような距離感で捉えつつ─つまり、「今から見た昔までのDISTANCE(距離)」で歌っていたのだと。だからサウンドも歌唱のアプローチもオリジナルからそこまで離れてはいなくとも、演奏者と歌唱者のニュアンスは、もっとライブ・ソングとして、ただただメロディが綺麗でリズムのノリがいいR&Bソングとして解釈されていた。やはりここでも、その前の『time will tell』や『In My Room』同様、「ライブだとここまで踊れる曲になるのか!」という驚きがあった。私と同じように感じた人も在ったかな。


そしてそのまま次の曲は、TAKUさん繋がりで『traveling (Re-Recording)』だったの、抜群の選曲、曲順だったよねぇ。あの当時のシングルのリリースの順番でありながら(m-flo remixは2001/7/25発売の8thシングル『FINAL DISTANCE』に初収録、そしてその次の9thシングルが2001/11/28発売のオリジナルの『traveling』!)、且つ、23年の間隔を飛び越えていきなり2024/4リリースのトラックに突入する。この連続的且つ離散的(飛散的?)な時空間飛行の重ね合わせはまさにワームホールをくぐったような衝撃だったよね。そこらへんの話からまた次回かな。