前回、「『君に夢中』の歌詞全編に渡って想定されているドラマ最愛の登場人物は朝宮優(梨央の弟)」と断言したが、そこらへんの解説をちょこっと。
優は確かに物語の鍵を握る重要人物ではあるが、主題歌で最も重視されるべきキャラクターかというとそこまでではないだろう。ヒカルが彼に最も着目したのは、勿論私の推測に過ぎないのだが、恐らく彼が「感情の昂ぶりで記憶の連続性を失う」という障害を持っていたからかと思われる。それは、ヒカルの母親藤圭子さんを蝕んだ症状を否が応でも思い起こさせたのではないだろうか。
圭子さんの症状について「記憶の連続性」の詳細はわからないが、例えば照實さんはこのように語っている。
「この感情の変化がより著しくなり始めたのは宇多田光が5歳くらいのことです。自分の母親、故竹山澄子氏、に対しても、攻撃的な発言や行動が見られるようになり、光と僕もいつの間にか彼女にとって攻撃の対象となっていきました。しかし、感情の変化が頻繁なので、数分後にはいつも、「ゴメン、また迷惑かけちゃったね。」と自分から反省する日々が長い間続きました。」
https://www.utadahikaru.jp/from-hikki/index.html
これからは記憶の連続性があったようにも窺えるが正確にはわからない。ただ、ほんの短い時間の間にその態度を豹変させているらしいことはわかる。
これは多重人格の症状(現代では解離性同一性障害というがこちらの四字熟語の方が伝わりやすいだろう)に近い。同じ人物が全く別の人格を宿す症状だ。今思えば、ヒカルが「24人のビリー・ミリガン」の作者であるダニエル・キイス氏と意気投合したのも、お母様の症状と日々向き合っていたからだったのかなと思われる。
そんなヒカルにとって「最愛」の登場人物でいちばん感情移入したのが朝宮優であったとしても何ら不思議ではないのではないだろうか。そんな風に思うのだ。
また、前に指摘した通り『君に夢中』では唐突に
『来世でもきっと出会う
科学的にいつか証明される』
と輪廻転生観を前面に出した歌詞が登場するが、これも前々から無意識日記では繰り返してきているように、多重人格と輪廻転生がコインの表と裏の関係性であることを想起すれば結構自然な導入であると思えてくる。
輪廻転生とは、
「1つの魂が幾つもの体に宿る」
ことを言う。この言い方に沿えば
多重人格とは
「1つの体に幾つもの魂が宿る」
という言い方をすることが出来るだろう。即ち
輪廻転生「魂・1:体・多」
多重人格「魂・多:体・1」
の関係にあるのだ。踏み込んで言えば、同じ現象のバリエーションのうちの一つずつに過ぎないのである。普通は「魂・1:体・1」だと思われているが、ひょっとしたらこの世には「魂・多:体・多」という「多重人格の輪廻転生」ともいうべき現象もあるかもしれないわね。
こんな風に纏めたら、多重人格が科学の許で研究されている現在であれば、そこから連なる未来には輪廻転生が科学的に証明されることだって、有り得るのではないだろうか。それをヒカルは『君に夢中』の歌詞の中で表現してくれている。つまりそこには、母のような症状に苦しんで今を生きている人たちが、いつかその原因を解明されて救われる事への願いが込められているように思うのだ。
『光は天使だ、と言われたり、悪魔の子だ、私の子じゃない、と言われたり、色々大変なこともあったけど、どんな時も私を愛してくれて、良い母親であろうといつも頑張ってくれてたんだなと今になって分かる。今後、精神障害に苦しむ人やその家族のサポートになることを何かしたい。』
https://twitter.com/utadahikaru/status/380685567807082496
ヒカルの2013年9月19日のツイートだ(お母様が亡くなられた一ヶ月後である)。こういった願いが歌の其処彼処に表れているのだと思えば、多少の唐突さも少しは納得がいくんじゃないかなって。そう私は思います。