無意識日記々

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一番の無言、一番の沈黙。

『Laughter in the Dark Tour 2018』での最大のハイライトは『初恋』での無音だった─という話は幾度となくしてきたけれど、それをして『言葉を失った瞬間が一番幸せ』と形容した人が居たので絶句した。見事な結びつけよな。…あ、今私が絶句したのも「言葉を失った瞬間」ですね、はい。

人は、許容量を超えた何かに触れると言葉を失う。それと無音とはイコールではないけれど、なるほど確かにヒカルさんはデビュー曲の『Automatic』からして無音を見据えながら創作に励んできた訳だ。『Bridge(Interlude)』や『Eclipse(Interlude)』といったインスト曲のタイトルもそれぞれのアルバムに於いて「言葉を失った時間」を指す比喩だという話も何度も繰り返してきた通りだし。セカンドアルバムには『言葉にならない気持ち』なんて曲も入ってるし。

そんなヒカルさん、最新曲『Gold ~また逢う日まで~』ではどのように無音と向き合っているのだろうか?…という観点から歌詞を見直してみると、

『外野はうるさい

 ちょっと黙っててください

 一番いいとこが始まる』

の箇所が目を引く。外野を黙らせると『一番いいとこ』が訪れるのか。それは上述の通り『Automatic』で『言葉を失った瞬間』が『一番幸せ』と歌うのと軌を一にしてはいまいか。デビューから24年を経過したが、ヒカルの歌詞のテーマの揺らがなさ、一貫性を示しているようで鳥肌が立つ。そしてそれは勿論全く同じではなく、時間の積み重ねを反映させた重みや味わいが加味されている。確かに、デビューしたての15歳に『黙っててください』と歌われても「この跳ねっ返りが何言ってんの」みたいになってたかもしれないものね。今までのキャリアのお陰でこういう歌詞が映えてる面もありそうだ。

とはいえヒカルさん、デビュー3年くらいで

『何度も姿を変えて 私の前に

 舞い降りたあなたを 今日は探してる』

なんていう風に(『Deep River』で)歌っているので、一貫したテーマが何度も姿を変えて自らの前に立ちはだかったりはぐらかされたりするのは、初期の頃から見抜いていたのかもしれないわね。

いずれにせよ、無言(『言葉を失った瞬間』)や(うるさいのを黙らせた)沈黙が『一番幸せ』だったり『一番いいとこ』だったりというのは、音を生むことを生業とした音楽家としてはある意味敗北というか、音楽にも「雄弁は銀、沈黙は金」という格言が適用されるのかと項垂れても仕方がない所を、

『音楽も無音で始まり、無音で終わる』

と無音もまた音楽の重要な一部、いやさ本質であると喝破し前を向くヒカルさん。カッコいいことこの上ない。今後も是非デビューから一貫して追究してきたこのテーマを更に突き詰めていって欲しいものである。にんにん。